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<目標は現役中の司法試験合格>林幸多郎、“失敗上等”で真面目にコツコツと【横浜FC異色ルーキーの素顔】

2023/09/29

 話題先行のルーキーではない。

 今季明治大から横浜FCに加入し、現役中の司法試験合格を目標に掲げる異色のフットボーラーとして注目される林幸多郎のことだ。サイドバック、ウイングバックとして主力を担い、出場時間はJ1全新人選手のなかで最長となっている。戦術理解度が高く、走力をベースとしたそつのないプレーが特長。長友佑都や森下龍矢、中村帆高といったメイジのサイドバックらしく対人に強く、打開力も備えている。

 大きな仕事をやってのけたのが、8月26日、横浜F・マリノスとの“横浜ダービー”だ。CKからペナルティーエリア外にこぼれてきたボールをそのまま右足で豪快に叩き込み、首位叩きの呼び水となった。

「いつもならトラップしてサイドに流すという選択肢を取ったはず。でもこれまでの自分のプレーを振り返ったときに段々と積極性がなくなっていると感じていて、ダービーだし思い切りプレーしようと意気込みを持って試合に臨めたので、あのような選択になったのかなとは思います」

 最近、自分で試合映像をじっくり見て振り返る作業は毎度欠かさない。ボールを持ってもバックパスが多く、仕掛けも少ないことには気づいていた。「ルーキーらしくなくなっている」と客観的に今の自分を眺め、問題点を解決しようとした先に、Jリーグ2得点目となる、あのゴールがあった。

「サッカーに限らず、何かをやり始めたときって怖れるものがないみたいな感じでやるじゃないですか。Jリーグでデビューして自分もそうだった。でも次第にミスしたくないという気持ちが出てきたのも確か。今のうちにもっといっぱい失敗したほうが成長するんじゃないか、と。ミスして先発から外されたら、それはそれで仕方ない。サッカー選手はその繰り返し。トントン拍子で成長するなんてほぼないでしょうから」

 今の自分にとって一体何が必要なのか――。そこを見落とさず“失敗上等”と腹を括れるから、成長のきっかけをつかんで離さない。

勉強は「趣味」。両立することにメリットがある。

 佐賀出身の林はサッカーと勉学を両立してきた。サガン鳥栖U-18でキャプテンを務めて無敗でプリンスリーグ九州を制す一方、進学校として知られる佐賀北高校では成績は常に上位。明治大では4年時にキャプテンとしてチームを束ね、2年ぶりとなる関東大学リーグ1部優勝に導いた。一方で、法学部の授業を受けて「法律は面白い」と感じたことで、サッカーと並行して勉強にも一生懸命励んできた。昨年5月、司法試験予備試験の短答式試験に挑んだものの、ここでは不合格に終わった。ただ勉強自体は「趣味」と言い切る。

「初学者にとって刑法は取り組みやすい。事件とかイメージしやすいし、そういう人は少なくないと思います。単純にもっと(法律を)知りたい、と。そこから始まって、その先に司法試験があるということ。弁護士になりたいから、が先じゃないんです」

 サッカーと司法試験。外からは二兎を追っているように映るが、本人にその感覚はない。

「僕の仕事はサッカー選手。何よりも競技優先だし、サッカーが一番であることは当然です。ただ24時間サッカーばかり考えることはできないので、空いた時間を勉強に充てている。それだけのことです。

 選手がサッカー以外に興味を持つって、別に変わったことでも何でもない。ゲームが面白いという人と同じで、僕は勉強が面白い。たまたまサッカーと勉強だけに興味があった。何かほかに夢中になれるものがあれば(勉強のほうを)あきらめることになっていたかもしれませんけど」

 ちなみに予備試験の再チャレンジは来年を考えているとのこと。両立にはむしろメリットを感じている。サッカーで悩んだとき、勉強をすれば忘れられるという。違う視座に立つことで逆に頭を切り替えられ、やるべきことが見えてくる場合もある。“横浜ダービー”がまさに好例だ。

 今季J2から昇格した横浜FCは、残留争いの渦中にある。下位から抜け出せない状況は続いているものの、ここにきてチームの状態が上がってきていることは間違いない。

 終盤戦に入り、勝ち点を積み上げていかなければならない熾烈な戦いが待ち受ける。ルーキーらしいハツラツとした働きで、チームを活気づけていくことが林の役割になる。

「走る、闘う、頑張る。そういったベースのところを真面目にやっていくことで、チームを元気づけていくことができればいい。僕にはそういったことしかできないと思うので」

 真面目にコツコツと積み上げていく。それが林幸多郎の生き方だ。

林幸多郎Kotaro Hayashi

2000年11月16日、佐賀県生まれ。サガン鳥栖U-15、18を経て明治大に進み、主将も務めた。'23年から横浜FCでプレー。3月4日鹿島アントラーズ戦でJリーグデビュー。170cm、70kg。

photograph by J.LEAGUE

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