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「着地を止めたのは根性だった」体操・宮田笙子は真のエースに成長した<疲労骨折でもH難度も決めてNHK杯V>

2023/06/09
3種目目の平均台に臨んだ宮田。終了時点では2位の岸と僅差だったが最終種目で逃げ切った

 けがを抱えながらの逆転優勝に女王の貫禄がにじみ出ていけた。体操の個人総合で競うNHK杯兼世界選手権代表選考会が5月に東京体育館で行なわれ、女子は持ち点2位でスタートした宮田笙子(順天堂大1年)が4種目とも安定した演技で逆転し、連覇を果たした。

 1つ目の跳馬で高難度の「伸身ユルチェンコ2回ひねり」をダイナミックに決めると、続く段違い平行棒では“鬼門”だった離れ技の「トカチェフ」を危なげなくクリア。3つ目の平均台も降り技までしっかりと決め、この時点でトップに立った。

 2位につける15歳の新鋭・岸里奈(戸田市スポーツセンター)とわずか0.1点差で迎えた最終種目のゆかでは、冒頭にH難度の大技チュソビチナ(後方伸身2回宙返り1回ひねり)を今季初めて組み込み、見事に成功。「自分に勝たないといけないという思いがあった。着地を止めたのは根性だった」と胸を張った。

 昨年5月のNHK杯を17歳で初制覇し、世代交代後の新エースとして世界選手権に出場した。初めての大舞台では重圧をはねのけて女子個人総合8位。さらに種目別平均台では銅メダルを獲得する大活躍で、世界にその名をアピールした。

 ところが順風満帆と思われた今年2月、右かかとの疲労骨折が判明した。医者から「このまま続けたら体操ができなくなる」と言われるほどの深刻な状態。練習量を大幅に落とし、特に足の負担が大きいゆかからは約1カ月間も遠ざかった。それでも「諦めなかった」(宮田)のがエースの気概。難度を落として臨んだ4月の全日本個人総合選手権で2位になり、NHK杯優勝につなげた。

 この姿には、自身も1月に腰の疲労骨折が発覚し苦しみながらNHK杯3連覇を果たした男子のエース橋本大輝(順天堂大4年)も舌を巻いた。「僕より宮田さんの方がけがの度合いはしんどかったと思う。その中で4種目ともミスなくやったのは本当に凄い」と後輩を称えた。

 NHK杯では宮田のほか、2位の岸、3位の深沢こころ(筑波大4年)、渡部葉月(同1年)も世界選手権代表に決まった。世界舞台での最大の目標はパリ五輪の団体出場権獲得。「新エース」から「真のエース」へと成長した宮田は「これからが大切」とますます表情を引き締めた。

photograph by JIJI PRESS
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