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[刻まれた93年の歴史]ハイバリーの輝きは色褪せない

2023/04/14
イングランドのサッカー界で特別な存在感を放ったハイバリー。無敗優勝など数々の伝説を記録してきた唯一無二の個性は、古き良き時代の香りを体現するのみならず、アーセナルに息づくモダニズムを表現。その伝統は新しい時代にも確実に受け継がれている。

 眩いトロフィー、歴代のレジェンドや名勝負、そして重厚な歴史。サッカークラブの魅力は、様々な要素から構成されている。同様に大きな比重を占めるのは、クラブの本拠地だ。世界的なサッカー人気の高まりに伴い、スタジアムはいずこでも観光名所としても賑わうようになった。だがアーセナルの新旧スタジアム、ハイバリーとエミレーツは、イングランドのサッカー界において特別な存在感を維持してきた。

 ハイバリーは唯一無二のスタジアムだった。巨大な紋章があしらわれた外壁を眺めながら、重厚なドアを開けると、そこには黒と白の大理石が敷き詰められたロビー、通称マーブルホールが設けられている。クラシカルなホテルを連想させる一角を抜けていくと、今度は記念写真の絵柄のようなイーストスタンドが眼前に広がる。

 手入れの行き届いた緑のピッチを臙脂(えんじ)色のシートや支柱、壁が取り囲む。しかも場内のいたるところに1930年代に流行したデザイン様式、アール・デコが凝らされていた。スタンド端のガラスパネルでさえ優美な曲線を描いていたし、通用口の番号を示すプレートやドアの取手に至るまで、ハイバリーは工芸作品のような意匠に満ちていた。事実、ハイバリーはサッカークラブのスタジアムでありながら、後に文化財の指定まで受けることになる。

Tomoko Nagakawa
Tomoko Nagakawa

 ただしハイバリーが体現していたのは、古き良き時代の香りだけではない。むしろ中核を成していたのは、時代の先を見据えたラディカルなまでの発想、新機軸を積極的に取り入れるモダニズムの精神だった。

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photograph by Ichiro Miyahara

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