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入江聖奈――片思いの相手にボコボコにされて。《アスリートが語る「珠玉の1敗」》

2023/02/23
第一線で活躍するアスリートは、敗戦から何を学ぶのか――。日本女子初の五輪金メダリストに輝いたボクサーが挙げたのは、東京五輪予選で「あこがれの存在」に喫したボロ負けだった。

【Defeated Game】
2020年3月11日
東京五輪 アジア・オセアニア予選 決勝
リン・ユーティン○ 判定 5-0 ●入江聖奈

   ◇

 背中を追う「あこがれの存在」だった。東京オリンピック女子ボクシング、フェザー級金メダリストの入江聖奈が挙げる「珠玉の1敗」は、5つ年上のその人と初めて公式戦でグローブを交えた試合である。

 2020年3月11日、ヨルダン・アンマンで行なわれたアジア・オセアニア予選。19歳の入江はベスト4に残ってオリンピック出場権を得ると、その勢いに乗って勝ち進んだ決勝の舞台には台湾のリン・ユーティンが待っていた。

「リンさんとは高3のときに台湾チームが岩手にやって来て初めて手合わせしたんです。背が高くて、動きも男性みたいに力強くて、純粋に戦闘能力が高かった。ライバルと思ったことなんかないし、私の一方的な片思いみたいな感じでしたね(笑)。だからあの試合、勝ちたいとは思っていても心のどこかでは、まだ無理かなという思いがありました。“当たって砕けろ戦法”でいってはみたんですけど……」

 当てたのはわずか一発だけ。1ラウンド、左ジャブを顔面にヒットさせると、リンは笑ったという。入江もつられるようにニヤリと返したが、プレスを掛けてワンツーを放つもそれ以降は当たらなくなった。

「1ラウンドで見切られた感じがありました。ジャブを当てたといっても今思い返すと、ただ観察されていたんだろうな、と。2ラウンドからは一切何もできなくなってボコボコにされてしまいましたから。戦っていくうちにどんどん目標が小さくなっていくんですよ。勝ちたいという思いだったのに3ラウンドになると、何とかもう一発当てる、になっていました」

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photograph by JIJI PRESS

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