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[教科書を超えた走攻守]イチローの野球を知る究極のプレー6選(前編)

2022/04/16
打てば誰よりもヒットを量産し、走っても守っても、そのスピードと技術で観るものを魅了し続けた。彼が演じてきた数々の名場面から“ザ・イチロー”のプレーを厳選!(全2回の前編/後編へ)

PLAY 1 1992.7.12 早過ぎたプロ初安打に見る非凡さと冷静さ。

 イチローのプロ初安打をいったいどれくらいのファンがおぼえているのだろう。日米通算4367安打はギネス世界記録。しかしそんな球史随一のヒットメーカーの1本目は、ごく地味で目立たないものだった。

 1992年7月12日、平和台球場でのホークス戦。木村恵二が投じた内寄りスライダーを、やや前のめりになりながらライト前に運んだ。打球方向を確かめ、ゆっくり一塁へ向かおうとした鈴木一朗は、右翼手が刺殺狙いで一塁送球してきたことに驚いていた。

「僕が高校卒業したてだと知っていたからだ、と思った。『厳しさ教えてやるぜ』って感じでね……。まあ、僕が左で投げるくらいの(緩い)送球でしたけど」

 相手外野手の“洗礼”に、時間の経過とともに腹立たしさが込み上げてきた。喜びや安堵とは無縁の1本目だった。

 ゲーム後、オリックス担当記者たちから初安打のコメントを求められた記憶はないし、チームメートからの祝いの言葉もおぼえていない。高いミート力、俊足は評判だったが、ドラフト4位の一軍初ヒットが注目されることはなかった。

 蒸し暑い真夏の深夜。チームホテル近くの屋台でひとり豚骨ラーメンをすすりながら、鈴木一朗はそんな現実への軽い焦りを感じていた。

「単純に1本目が出たことは嬉しかったと思うんですよ。でも計画とは違って、(初安打が)出るのが早過ぎた。この1本で一軍にいる時間が長引いたら嫌だなと。でも、とりあえずスタートは切らないといけないから、まあこれも現実として受け止めていくしかない。あまりポジティブな感情はなかったですね」

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photograph by Naoya Sanuki

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