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[北京入り後の逡巡]冨田せな「トラウマを乗り越えた先に」

2022/02/25
本当なら心浮き立つはずの晴れ舞台に立った時、脳裏に蘇ってきたのは2年前の忌まわしい記憶。ハーフパイプ日本女子初メダルの快挙の裏には、恐怖を意志の力で克服せんとする闘いがあった。

 恐怖心との戦いを制してのメダル獲得だった。スノーボード女子ハーフパイプで銅メダルに輝いた冨田せなは、「うれしいのと同時にすごく驚いている。1本目からやりたかったルーティンを決められたことがすごく大きくて、その後の2本目、3本目と攻めて滑ることができた」と瞳を潤ませた。

 3本滑った中の最高点で競うハーフパイプ。1本目の滑走で締めくくりのトリックとして入れた「フロントサイド1080(横3回転)」を成功させたことが、勝負の分岐点となった。

 高さは申し分なく、着地はビタビタ。86.00点を出して2位発進すると、2本目は最高到達点を1本目より上げて88.25点とした。連覇を達成したクロエ・キム(米国)、2位のケラルト・カステリェト(スペイン)には及ばなかったが、3位で表彰台に上った。

 この種目で日本女子初のメダル獲得とあってチームジャパンは選手とスタッフがこぞって沸き上がったが、取材エリアにやってきた冨田は控えめな微笑みだった。

「練習から調子が良くて、自信を持って『テン・エイティー(1080)』を打てた。点数の目標はなく、練習してきたことをやりきって、それに結果がついてくればよいと思っていました」

 パイプをかっ飛ぶダイナミックなパフォーマンスとのギャップに驚かされるほど穏やかな口調。それは、歓喜と同時に安堵の気持ちが広がっていたからだった。

 18歳で平昌五輪に初出場し、8位入賞を果たしてから2シーズン後の2019年12月。北京五輪会場と同じ中国・張家口市の雲頂スノーパークで行われたW杯第2戦でアクシデントが起きた。予選を難なく通過して迎えた決勝の公式練習で転倒し、頭を強打したのだ。

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photograph by AFLO

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