強豪とのデッドヒートの果てに、またも頂点には僅かに及ばなかった。それでも、不調を払拭したエースは悔しさのなかに充実感も滲ませた。3大会連続メダルに結実した「今まででいちばん苦しい4年間」に迫る。
「(体力は)残っていなかったです」
少しでも順位を上げるためスキー板を前に出す動作すら入れられなかったことが、死力を尽くした一戦を物語っていた。
先頭で逃げ切りを図る渡部暁斗に、最後の直線に入るカーブで外側から1人、直線で外からさらにもう1人が襲いかかってくる。最後まで続く3者のデッドヒートの末、渡部を待っていたのは、0.6秒という僅差の銅メダルだった。
「手を伸ばしてつかもうとすればするほど、手からこぼれてしまう。届かない人間もいるんです、という感じですかね」
2月15日、ノルディック複合個人ラージヒルは、渡部にとって7位にとどまったノーマルヒルからの巻き返しと、金メダルという長年の夢をかなえるための舞台だった。
前半のジャンプを5位と好位置につけ、迎えた後半のクロスカントリーは積極的に前に出る走りを見せた。
「けっこうサインも出したんですけど、あまり引っ張ってくれない部分が多くて。自分でいいペースを作らないといけないと焦りつつ、後ろとの差も見つつという感じでした」
クロスカントリーでは風を受けることによる消耗を防ぐため、お互いに先頭をかわりつつ進むことが暗黙の了解となっている。だが、渡部にかわろうとする選手はいなかった。長い時間、集団を牽引せざるを得なかったことによる消耗が、満を持してスパートをかけた金メダルのヨルゲン・グローバク、銀メダルのイエンスルラース・オフテブロのノルウェー勢とのわずかな差を最後の最後に生みだしたかもしれない。
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photograph by Naoya Sanuki/JMPA