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[キャプテン起死回生の一撃]山田哲人「スタンド上段に叩き込んだ苦闘」

2021/12/04
それは、味わうような、噛みしめるかのような数秒間だった。打った瞬間それと分かる大本塁打を見届けてから突き出した拳。その所作には“このチームで”と語ってきた万感が籠っていた。

 溜まりに溜まった思いを爆発させた。

 王手をかけた第5戦。3点を追う8回だった。無死一、二塁から真ん中低めに甘く入ってきたチェンジアップを今度こそ逃がさなかった。

「しっかりタイミングを取れて、イメージ通り、強い打球を打てたので良かった」

 ようやく飛び出たシリーズ1号。左翼席上段に弾む打球を見届けて、山田は右手の拳を握りしめて仲間がいる一塁ベンチに向けて思い切り突き出した。

 1度目のトリプル3を達成した2015年。ソフトバンクとの日本シリーズでは第3戦の壮絶な打ち合いの中で3本塁打を放って唯一の白星の立役者となっている。

 キャプテンとして迎えた2度目の大舞台。しかし打者・山田は苦闘していた。

「自分的にはすごく振れていた。でもちょっと読みが違うな、と。ちょっと運がないのかなと思っていた」

 読みが外れ、いい当たりが野手の正面を突くアンラッキーもあった。この本塁打まで17打数2安打で長打もない。結果が出ない、チームに貢献できないことへのイライラが募っていた。

 象徴的な場面はこの試合の第1打席だった。カウント1-2から投ゴロに倒れると、バットボーイから受け取ったバットを、グラウンドに小さく叩きつけた。普段はあまり感情を表に出さない。特にマイナスな気持ちは周囲に絶対見せない山田としては、珍しい場面だった。

 それだけフラストレーションが溜まり、結果を求めて苦闘していたのだ。その中で、ようやく飛び出した起死回生の一撃だった。国内フリーエージェントの権利を獲得した昨オフ。移籍か残留かで悩んだ末に、ヤクルトと新たに7年契約を結んだ。残留を決めると同時に、山田が志願したのが、キャプテンという立場でチームを引っ張っていくことだったのである。

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photograph by Hideki Sugiyama

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