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[異色の最年長金メダリスト]濱田尚里「寝技の女王を育てたサンボとバイブル」

2021/10/24
寝技の攻防に持ち込めば、かなう者は誰もいない。五輪初出場で、日本柔道史上最年長で頂点に立った。その唯一無二の武器は、いかにして磨かれたのか。遅咲きの女王が出会った達人の本と、異種格闘技とは。

 寝技、女王。試しにそんな言葉で検索してみると、パソコン上の画面に真っ先に挙がってくるのが濱田尚里の名前だ。

 先の東京五輪女子78kg級で、寝技によるオール一本勝ちで頂点へ。しかも五輪初出場で、30歳10カ月での金メダル獲得は日本柔道史上最年長の記録だった。これほどの逸材が今までどこに隠れていたのか――。そう不思議に思った人は少なくないだろう。

 濱田の柔道の原点は故郷鹿児島にある。

 本人いわく、習いごとがしたいと思っていたところにたまたま少年柔道の先生に声をかけてもらい、10歳で柔道教室に通い始めた。中学でも柔道部に入ったが、きっかけは「一緒に入らない?」と誘ってくれた友人がいたからだ。本人はそこまで積極的ではなかった、というのだから面白い。

「女子柔道部のある中学校ってなかなかなくて、当時も男子しかいなかったんです。でも入ろうと誘ってくれる子がいて、5人くらい集まったからやろうかなって。勝ちにこだわるチームでもなかったし、柔道を楽しんでました」

 転機となったのが、中学卒業後に親元を離れ、市外にある鹿児島南高への進学を決めたことだった。公立校ながら女子柔道部の実力は県下トップクラスで、彼女はそこで寮生活を送ることとなる。朝練に始まり、放課後の練習まで、まさに柔道漬けの毎日。青春時代を振り返る濱田の表情は、なぜかちょっと恥ずかしげだ。

「本当に憧れだけで鹿児島南に入ったので、朝練とか合宿とかも、なんか強豪校らしくて良いなと思って……」

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photograph by Ai Iwane

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