11歳でデビュー、男性相手の公式戦初勝利。今では当たり前となった道は彼女が切り拓いてきた。結婚、出産、育児、つまり一人の女性として人生を生きながら、昨秋には史上最年長の51歳でタイトルに挑戦。パイオニアから見た女流棋士の現在と未来とは――。
太陽が一日の仕事を終えようとする夕暮れ時。柔らかな声色から唐突な“告白”がこぼれた。
「最近気づいたんですけど、私そんなに勝負事好きじゃないかもしれない。他の棋士の方々から『何を今更言ってんだ』って言われちゃうかも……。40年経ってやっと今、気づいたところがあります」
今、とは――。少しだけ時計の針を戻してみる。
2020年10月、中井は新進気鋭の石本さくら女流初段(現女流二段)を破り、女流タイトル戦・大山名人杯倉敷藤花戦への挑戦権を手にした。三番勝負出場時の51歳4カ月は、清水市代女流七段が'18年に達成した49歳9カ月を抜いて女流タイトル戦最年長挑戦の記録を大きく更新。局後の取材では同門の弟弟子・木村一基九段を引き合いに出し、「オジサン棋士も頑張っているので、オバサンもちょっと頑張らないと」と話し、将棋ファンを大いに沸かせた。
13年ぶりの大舞台では23歳年下の絶対女王・里見香奈女流四冠を前に、0勝2敗と完敗。タイトル獲得19期は歴代3位と、長く女流トップとして一時代を築いた中井から見ても現在のトッププロはそれほどに力を上げているのだろうか。
「上がってます、上がってます。私がプロになって最初にタイトルに挑戦したのは13歳だったんですけど、その時の将棋はなんだったんだろうってくらい。里見さんもだいぶ雰囲気が変わりましたね。やっぱり堂々としているし、技術的にも精神的にも成長していると思いました」
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photograph by Kosuke Mae