#1002
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<1999年の怪物と宇多田ヒカル> 松坂大輔「僕、野球が仕事だって思ってないですから」

2020/05/15
世界中のスタジアムから、球音と歓声が消えた春。そんな時だからこそ、思い出したいシーンがある。世界一の歓喜、屈辱からの逆転劇、甲子園での躍動。野球ファンの脳裏に刻まれた選手の「笑顔」とその裏にあった秘話を、当事者の言葉で振り返る。(Number1002号掲載)

 あれはプロ1年目のオフのことだ。

 10代で7000万円という破格の年俸を手にした松坂大輔に「月に500万ものお金、どうするの」と訊いてみたことがある。すると松坂は「先月なんて2、3万しか使ってないっすよ」と可愛らしいことを言ったあと、やけに嬉しそうな顔でこう続けた。

「でも、今月はもう15万くらい使ったのかな。だって、奢りまくりですからね。みんな、僕にカネを払わせるために呼ぶんだ。いったい何が楽しくて高校の頃のヤツらとばっかりご飯、食べなくちゃいけないんですか。いつも焼き肉ですよ。『メシ食わせろ』って言われて『ファミレスでいいよな』って言うと、『何言ってんだよ、お前のときは焼き肉しかないんだよ』って」

「人生、イヤになりました」

 16勝5敗――新人王はもちろん、最多勝、ゴールデングラブ賞、ベストナインまで搔っさらったプロ1年目。順風満帆にしか見えなかった松坂だったが、夏を迎えた頃、こんな想いを吐露したことがあった。

「野球は楽しいけど、人生はおもしろくない。高校の夏までは楽しかったのに、マスコミに追われるようになってから、人生、イヤになりました。ホント、こんなんだったら誰も知らない普通の高校生のほうがいいや。好きな野球をやってきてこうなったからしょうがないとは思いますけど、どこにも出掛けられないでいる今のこの時間は何なんだって、よく思います」

 この言葉はショックだった。

 時代の寵児と持て囃される18歳が、自由に外へ出られず、部屋に閉じこもって、人生が楽しくないと嘆いている。そんな陰鬱な気持ちがピッチングに影響を与えないはずがない。

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photograph by Hideki Sugiyama

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