空をつかむようにまっすぐにのびる左アッパー、と作中にあるのだが、読んだとき、それを目撃した、と感じた。
作中で描かれるボクシングは、華やかな世界戦などではなく、後楽園ホールがメインの舞台の昭和的で泥臭いボクシングだ。そしてそのボクシングは、試合実況や試合レポートの言葉ではなく、小説の言葉で、執拗に綴られていく。ざわざわとざわめく居酒屋の描写と地続きのように描かれるボクシングだからこそ、次第にその本質を露わにしていく。
男なら拳だ、球だの棒だの使うんじゃない、身ひとつで勝負なんだよ
と、上司に怒鳴られる空也は、恋も友情も小説のなかでしか知らない、出版社に勤務して三年の、なよなよした男だ。文芸担当になることを長年の目標にしていた彼は、望まぬままボクシング雑誌の編集者となり、今まで全く無縁だったこの競技と深く関わっていく。
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photograph by Sports Graphic Number