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『魔球』天才投手の一球から物語が動き出す、謎解きに留まらない野球推理小説。

2018/01/03

『魔球』。この一冊を手にしたのは、一九九〇年、もう三十年近く過去のことになる。どうして、そんなにはっきりと覚えているかというと……理由はよくわからない。ただ、一九九〇年の年の初め、寒さが一番厳しいころに、地元の書店で買い求めた、それだけははっきりと覚えている。

 それから『魔球』はずっと、わたしの本棚の中にいた。


 今、ひさびさに取り出してみる。

 ページの縁がうっすらと黄ばんでいた。表紙の裏にも点々と染みがついている。購入してからの長い年月を無言で雄弁に語っているようだ。

 三十年弱。生物としての人間にとって、けして短い年月ではない。初読のとき、子育てにあたふたしていた若い(?)母親だったわたしは、腰痛やら皺やらコレステロール値に悩む立派な(?)老人になった。それでも、忘れていなかった。『魔球』のページを開いたとたん、須田武志という少年の世界に引き込まれ、その世界の何一つも忘れていなかった事実を突きつけられる。

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photograph by Sports Graphic Number

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