『魔球』。この一冊を手にしたのは、一九九〇年、もう三十年近く過去のことになる。どうして、そんなにはっきりと覚えているかというと……理由はよくわからない。ただ、一九九〇年の年の初め、寒さが一番厳しいころに、地元の書店で買い求めた、それだけははっきりと覚えている。
それから『魔球』はずっと、わたしの本棚の中にいた。
今、ひさびさに取り出してみる。
ページの縁がうっすらと黄ばんでいた。表紙の裏にも点々と染みがついている。購入してからの長い年月を無言で雄弁に語っているようだ。
三十年弱。生物としての人間にとって、けして短い年月ではない。初読のとき、子育てにあたふたしていた若い(?)母親だったわたしは、腰痛やら皺やらコレステロール値に悩む立派な(?)老人になった。それでも、忘れていなかった。『魔球』のページを開いたとたん、須田武志という少年の世界に引き込まれ、その世界の何一つも忘れていなかった事実を突きつけられる。
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