美しく厳しいアラスカでの18年の仕事と生活とが、平明なそれでいて深いたたずまいを持つ文章で綴られた結晶のような一冊。著者は'96年にカムチャツカでヒグマに襲われて43歳で亡くなったが、多くの写真とエッセイで北国の大自然と動物達と人々の姿を届けてくれた。本書は生前に出版された最後の著作だ。
収められた33篇のどれもが自分の生き方の静かな考察でもあるようだ。自分がいかに幸福な時間を持て、素晴らしい人たちと自然とに出会ったかを、静かに語りかけるのである。吹雪の夜、山越えの飛行をするブッシュ・パイロット、北極圏の村に住み、著者の住む町の大学に学ぶ娘に届けてくれ、とカリブーのスープの“出前”を託すエスキモーの家族、先住民達や移り住んできた白人達。人種も年齢も職業も違う人々が、一人の人間が衣装を変えて次々と出てきたような気がするのは、自然と共に生きる共通項からなのだろう。新妻を連れてアラスカに住み着こうと決めた著者は、その心境を告白する。「それまでのアラスカの自然は、どこかで切符を買い、壮大な映画を見に来ていたような遠い自然だったのかもしれない。でも、今は少し違う。たとえば、自分自身の短い一生と、原野で出合うオオカミの生命が、どこかで触れ合っている。それは野生動物にとどまらず、この土地に生きる人々との関わりでも同じだった。そして、そこから見えてくるものを大切にしたいと思った」
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