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悲劇の記録でも心に残る“敗北の中の栄光”。 ~『スコット南極探検隊』を読む~

2015/03/18

 探検記の古典、極限状態での人間の勇気の記録だ。20世紀初頭、雪と氷の白い大陸を舞台に争われたイギリスのスコット隊とノルウェーのアムンセン隊の南極点到達競争は、アムンセンが勝利した。しかし、敗れたスコットが勝者にもまして語り継がれるのは、ほぼ全員遭難の悲劇もあるが、本書の力も大きい。著者は24歳でスコット隊に動物学者として参加し、探検終了後10年の時を置いて感情を交えず、事実を伝えることに徹して探検の全容を語った。

スコット隊が最初から抱えていたハンデとは?

 圧巻は、アムンセン隊からおよそ1カ月遅れで極点に達したスコット隊5人の帰還行だ。基地に戻らぬスコットの捜索隊に加わった著者は、スコットらの遺体と共に発見した彼らの日記、記録で極点到達から遭難までの2カ月余をよみがえらせた。帰還は南極の夏には例外的な悪天候の中で食糧、燃料の欠乏と凍傷に苦しみながら氷点下40度の雪原を人力でソリを引く凄絶なものとなった。負傷していた隊員が亡くなる。スコットはアヘン錠剤とモルヒネを示し「苦しみを終わらせる方法」を全員に知らせる。悪化した凍傷で歩行困難になった隊員は皆の負担になるまいと、自らテントを出る。スコットの日記の最後は「最後まで耐えねばならぬ。だが、最後は目前。これ以上書き続けるのは困難……」。

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photograph by Sports Graphic Number

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