イギリス暮らしが6年ほどになったアメリカ人の著者は、ある土曜の夜、ウェールズからロンドンに帰ろうとしていた。その途中の駅で臨時列車到着のアナウンスが流れた。たちまち静かな夜の駅は不穏な気配に満たされた。警官たちが現れ、「リヴァプール、ラララ」と歌う連中が詰め込まれたサッカー特別列車が止まり、車掌が放り出された。車内で窓をぶち破ろうとテーブルの脚を振り回す男がいる。ドアからはじき出された太った男を6人の警官が飛び掛かり押さえつけた。
血塗れの姿、催涙ガスをかいくぐるうちに得た快感。
著者とフーリガンとの出会いだ。紳士の国イギリスで週末のサッカー試合のたびに暴徒が荒れ狂う。本書で最も短い4ページの章で著者が地方都市の警視に「アメリカではこんなことはない」といくら話しても理解してもらえない愉快な場面があるが、フーリガンに興味を持った著者は、彼らの仲間になりその実態を調べようと思い立った。1980年代から'90年代初めのフーリガンの嵐が吹き荒れた時代、暴徒の内部からの長期体験レポートだ。369ページがただ暴力と群集の動きの詳細な報告で満たされる。相手チームのサポーターと戦い、警官隊と衝突し、軍隊に鎮圧される。街を破壊し、商店で略奪し、移動のバスの窓から小便をし……果てしない乱暴狼藉の連鎖。面白い、興奮させられ、空恐ろしくなり、疲れて、苦笑するしかなかった。
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