「自分、新入幕なのになんで大関と当たるんですかね?」
初の大関戦を控えた前夜、鉄板焼き店で600gのステーキをたいらげた逸ノ城は、まだまだ物足りなさそうな顔で、部屋のおかみさんにそう問うたという。
先の大相撲9月場所。ザンバラ髪の貴公子だった遠藤に代わるかのように、「ザンバラ髪の怪物」が出現した。連日、満員御礼の垂れ幕が下がる両国国技館の主役は、新大関の豪栄道でも31回目の優勝に挑む白鵬でもなかった。
それは東前頭十枚目、新入幕の逸ノ城だった。身長192cm、体重199kgの巨漢で、その太もも周りは92cmを計測。数あまた多いるモンゴル出身力士のなかでも、唯一の遊牧民生活者で、その性格は大草原のごとくおおらかで鷹揚、はにかみがちに口を開くその姿は、シャイでいて純朴。幼少の頃から馬にまたがって羊を追い、ブフ―モンゴル相撲を取って遊んでいた自然児が、土俵の上で怪物と化したのだ。
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photograph by KYODO