出版されて半世紀近くになる。折に触れて拾い読みをする。単行本の箱は古びたが、造本はしっかり、美しいカラーの絵も色あせていない。
適当にページを開くと「秋の彷徨」、本書を代表する章だ。鮮やかなオレンジ色の秋の山の夕暮れ、樺の木と隣り合う岩の上に立つ男のシルエット。文章に眼を移す。男は越後から藪漕ぎを続けて上州四万を目指していたが、この岩の上で一夜を明かすと決めた。素っ裸になって笹ダニを始末し、ウィスキーをハンカチに浸して身体を拭き、それから軽くごくり。「何たる愉快」。
また例えば「けものたち」の章。囲炉裏端でムササビと山宿のおばさんが栗の実の選別をやっている絵。春の嵐で巣から落ちたのを拾っておばさんに預けたムササビの子の1年後だ。「兎」では雪の山道で会った大兎を「猟師の本能が眼ざめ」ステッキで一撃、キノコ入りの「スチュにすると……」と料理法を思うと「罪の重さも一向になんともない」。
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photograph by Sports Graphic Number