アンソロジーの編集は難しい、と想像する。定めたテーマで多くの作者の文章を集めるが、スター選手ばかりのオールスター戦に似て、顔見せで終わり、試合=文章の印象が弱くなる。そうさせないのが監督=編者の腕だ。野球の文章を探索し、吟味し、打順を決め、采配をふるうのは詩人で草野球チーム、ファウルズ監督兼三塁手の平出隆。『ベースボールの詩学』など、野球好きを唸らせた本の著者だから、最適任者だった。
いきなり宮沢賢治だ。5行詩、エラーの一瞬を詠っている。野球の俳句や随筆で知られる正岡子規が続き、夏目漱石の早稲田対一高の試合観戦記には驚いた。子規の親友だから、野球を書いても不思議ではないけれど、こんな文章があるのは知らなかった。漱石は、試合に敗れてへたり込む一高選手に目を向けて、「粛然として一語を発するものがなかつた」と書く。膨大な全集からよく見つけたものだ。
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