鈴鹿における最後の雄姿を、F1ジャーナリストの
今宮純氏が、当時の取材メモから克明に描き出す。
'93年、日本GP決勝5日前、東京近郊のリゾートホテルでアイルトンと話す時間が持てた。時差調整のために早めに来日し、このホテルに身を隠してごく少数の関係者や友人と会う以外、トレーニングに励みながらリラックスしたときをゆったりと過ごすのが習慣だ。ホンダで走っていた昨年まではいくつもの発表会や記者会見、スポンサー対応などに追われていたが、この年からマクラーレン・フォードになって、彼の自由時間は増えた。
約束よりも早くホテルに着くと、スイートルームに直ぐ来いとのこと。ちょっと退屈していたのだろうか、この日のアイルトンはよくしゃべった。
「ポルトガルGP(約1カ月前の9月26日)からマシンそのものは何も変わっていないさ。あそこで新しいパワーアシスト・ブレーキにしただろ? でもスズカ用の特別なコンポーネンツやスペシャルパーツは何もない(笑)。いままではホンダ・パワーというエキストラがあったけど、そうはいかないからね、今年は。やはりここは難しいよ。注意深く、しかし大胆に攻めなければいけないから。
今年のエンジン(フォードHB・V8)だとピット裏、S字の連続するコーナーでのリズムがポイントになる。車速をキープすることだ。どこか一つリズムが崩れてもダメなんだ。たぶん今年は4速ギアでコントロールする走りになる。トルク特性がホンダV12とは違うから、そうやって攻められればと今は考えている」
「130Rでは、注意深く……大胆に……6速で……」
彼の頭の中は、'87年から昨季まで使ってきたホンダエンジンで戦えない、この年の鈴鹿基本セッティングのことでいっぱい。非力なフォードV8では、もはやホンダ・パワーで押すようなわけにはいかないからだ。
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