19歳からの挑戦。現代のレーサーでは異例に遅いレースデビューだったが、
彼はわずか6年でF1にまで辿り着いた。経験がものをいうレースの世界で、
キャリア不足をものともせず、一気に最高峰に到達できた秘訣とは。
彼はわずか6年でF1にまで辿り着いた。経験がものをいうレースの世界で、
キャリア不足をものともせず、一気に最高峰に到達できた秘訣とは。
団地の曲がり角を、自転車で激しく攻める少年がいた。
「昨日より速く!」
全力でペダルを回し、より深く自転車を傾ける。友達が誰も真似できないスピード。自分だけが辿り着ける世界。幼い頃から、佐藤琢磨は限界域で乗り物を走らせるのが好きだった。そして、好きな物には100%の力を注いだ。失敗は怖くなかった。しょっちゅうひっくり返りながらも、彼は飽きることなく、団地の曲がり角を旋回し続けた。
F1ドライバーになるには、幼少の頃からの英才教育が常識だ。小林可夢偉は9歳から、セバスチャン・ベッテルは8歳から、フェルナンド・アロンソにいたっては3歳から、エンジン付きのカートに乗り始めている。佐藤が自転車で団地の角を疾走していたのと同じ年頃で、彼らはすでに、4輪レーシングマシンの原点での走行を開始していた。
佐藤がレーシングカートに乗り始めたのは、19歳の時だった。F1ドライバーをめざす若者なら、10年以上のキャリアがあってもおかしくない年齢で、まっさらの新人としてモータースポーツの世界に足を踏み入れたのだ。あまりに遅く、あまりに不利なタイミングでのスタート。しかしそれは、佐藤のモータースポーツへの思いが極めて純粋で本気だったことの表れだった。
「やる」と決めたこと以外は、極端にズボラでだらしない。
10歳で鈴鹿サーキットに連れて行ってもらい、F1を観戦した。乗り物好きの佐藤は身震いするほど感動し、F1ドライバーを夢見た。しかし実際に競技者になるには、モータースポーツの世界はあまりにも遠かった。
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photograph by Hiroaki Matsumoto