1月10日、昨年と同じ場所で、昨年とは違う味の涙を流した。毎年変わる選手たちを見守り、育ててきた岩出雅之監督が味わった最高の喜び。就任以来、14年の歳月をかけて磨いたその手腕で、彼らはまた新たな歴史のページを開いていく。
揺れていた。赤の塊が左右に、前後に揺れていた。赤のシャツを着た選手たちは一つとなって、ほとばしる感情に身を委ねていた。
自陣ゴール前の必死の守りで最少差のリードを保ちつかんだ勝利から20分がたとうとしていた。
やがて、赤の塊の真ん中に、背広姿の人物が押し出された。選手たちは、歓声とともに、胴上げする。何度と宙に舞いながら、監督、岩出雅之は、青く澄んだ空を見つめていた。
昨年、決勝で敗れてから1年、帝京大学監督就任から14年という時間の果てに到達した日本一を、ただ、かみしめていた。
張り詰めた空気の中で130名の部員は練習に集中していた。
2009年12月のある日。新宿から京王線の特急列車で約30分、聖蹟桜ヶ丘で降りる。バスで15分ほど行くと、上り坂となる。停留所で降りて、さらに坂道を上っていくと、クラブハウスが見える。クラブハウスの入り口からのぞくと、靴箱の上に、「気づいたら即行動! 個人の意識でチームが変わる!! ごみを拾おう。」と記された紙が貼られている。
さらに坂を上っていくと、人工芝の緑に覆われたグラウンドが広がる。
出会う選手たちは次々に、「こんにちは!」と頭を下げる。
グラウンドからは、彼方に広がる街と、山が見える。秋が深まれば木々が鮮やかに紅く染まる。
「気合い入れていこう」
「バインド!」
選手たちの言葉が飛び交う。タックルダミー、キックチェイス、ラインアウト、スクラム……無駄口は聞こえない。空気が張りつめている。試合に向けて準備するAチームをはじめ、B、C、D、総勢130名の部員はそれぞれに集中していた。
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photograph by Kotaro Akiya