甲子園の風BACK NUMBER
「延長18回と5連続敬遠」の共通点…星稜・山下智茂監督が81歳の今も心に秘める教訓「もしあの試合に勝っていたら、天狗になってクビだったかも」
text by

元永知宏Tomohiro Motonaga
photograph byTomohiro Motonaga
posted2026/09/09 11:06
伝説の「延長18回」を指揮した星稜監督・山下智茂は80歳を過ぎた今も野球への情熱が衰えない
「うちが2対1で勝っている場面で僕がマウンドに上がって、代打で尾藤(公)さんが出てきた。打球がピッチャーとファーストの間に上がったから、加藤(直樹)に任せたんですよ。落としそうになりながら、加藤がキャッチしました。
試合のあとに尾藤さんがこう言ったんです。『今日は加藤くんに乾杯だ!』と。加藤は泣きながら、ものすごく喜んでいました。『あの時のあれはエラーじゃない、転倒だ』と尾藤さんが言ってくれたことで、加藤は救われたと思います」
星稜と箕島との「高校野球史上最高の試合」から47年が経った。監督だった尾藤は2011年にこの世を去り、あの時の選手たちは60代半ばにさしかかった。
81歳の今も高校野球の指導を
ADVERTISEMENT
山下は2005年9月に星稜の監督を勇退、野球部名誉監督に就任した。尾藤の後任として甲子園歴史館顧問をつとめながら、81歳になった今もまだ、高校野球の指導を行っている。
「昭和、平成、令和と3元号にわたって、高校野球の指導ができることを幸せに思います。一生懸命に野球をやってきてよかったなと。最後に、自分がお世話になった高校野球に恩返しがしたい」
現在は、母校である石川県立門前高校野球指導アドバイザーの肩書も持つ。
「能登半島の西部にある門前に住む知人から『町おこしをしてくれんか』と頼まれました。野球で勝つことも大事ですけど、町の人たちに喜んでもらえることがうれしい。『山ちゃん、よう頑張っとるな』と声をかけてもらいます。月曜日には幼稚園に行って、小さい子に野球を教えています」
80歳を過ぎても、高校生を相手にノックを打ち、バッティング練習ではピッチャーもつとめる。
「バッティングピッチャーをしないと生徒の調子がわからないんですよ。『ここは得意なコースだけど、ここが苦手だな』というのも。指導を始めて3年なんですけど、はじめはマイナスなことばかりを言っていました。『こうしちゃダメ、あそこがダメ』だと。去年の秋にそれじゃいかんと思い、言葉のかけ方を変えたんですよ。
『ここを打ってみたら』『こうすればいいぞ』と言うようにしたら、1年生大会で準優勝しましてね。いい結果が出て驚きました」
指導者がかける言葉の強さを実感する日々だ。

