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「大事です、大事ですね。大事なんですけど…うーん」永瀬拓矢は藤井聡太に敗戦後、言葉に詰まった「全力でぶつかれば結果は度外視でも」発言の真意 

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大川慎太郎

大川慎太郎Shintaro Okawa

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posted2026/04/12 06:03

「大事です、大事ですね。大事なんですけど…うーん」永瀬拓矢は藤井聡太に敗戦後、言葉に詰まった「全力でぶつかれば結果は度外視でも」発言の真意<Number Web> photograph by Shintaro Okawa

藤井聡太王将相手の番勝負勝利は再びお預けとなったが、永瀬拓矢九段の将棋に対する信念は揺らぐことはないはず

「しばらく藤井さんとは公式戦で指せないかもしれないので、しっかり気を引き締めないといけません。まあ、伊藤さんとの対戦は決まっているので、自堕落にはならないと思うんですけど」

 永瀬が自堕落になることなどあるのだろうか。とても想像できない。

「藤井さんと当たることが決まっていれば、そんなことはないんですけどね。気の張り詰めがなくなってしまうので、意識的に引き締めないといけません」

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 永瀬のいう自堕落とは、勉強時間が減るとかそんな低いレベルの話ではない。

「気持ちの問題なんですよ。自分の基準で勉強の量と質を満たしていても、気持ちが入っていなければダメなんです」

タイトル、獲りたい気持ちはあるんですよ。でも

 その気持ちとは、何なのか。

「藤井さんと勝負をするという覚悟、誠意、リスペクト。そういうことですね」

 それは、藤井に勝ちたいという意識ではないのですか?

「私には、そういう意識は当てはまらないですね。そういう意識を持つ人がいてもいいとは思うんですけど、私はそういうスパンではやっていないんです。人生を通して藤井さんといい勝負をし続けたいので、目の前の一局に勝つことより、もっと長い目で藤井さんとの勝負を測りたいんです」

 いい勝負をし続けること――。

 フルセットまでもつれ込んだ今回の王将戦は、確かに白熱した「いい勝負」だった。

「藤井さんとは直近で4勝4敗です。だから『いい勝負をし続けたい』という自分の言葉に対して、結果が少しずつついてきています」

 思わず、訊いてしまった。

「それじゃあ、さすがにそろそろ(藤井からタイトルを)獲りたいのではないですか?」

 永瀬から言葉が返ってこなかったので、すぐに「ちょっと違うか」と自分で言ってしまった。的を外したと思った時の照れ隠しで、私の恥ずかしい癖だ。

 すると永瀬は否定した。

「いや、獲りたいですよ。直近4勝4敗でも獲れていないんですから」

 うまく白星を当てはめれば、勝利は永瀬に転んでいてもおかしくなかったのだ。

「獲りたいという気持ちはあるんですけど、そういう気持ちにはなりたくないというか。きれいごとかもしれませんけど、そういうことはあまり考えたくないんですよね。両者がベストパフォーマンスでぶつかって結果はどちらかに転がるけど、一生懸命指した結果なら、それはどちらでもいいのかな、と」

大事です。大事ですね。大事なんだけど…

 車内放送が、新横浜に近づいていることを知らせた。一番、訊きたかった質問を最後にぶつけた。人によっては当たり前の問いかけだろうが、永瀬がどう思っているのか知りたかった。

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