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小國以載37歳「こんな奇跡があるんか」“井上尚弥とも拳を交えた”強敵タパレス撃破のウラ側「4ラウンドまで絶対にボディを打つな」敗れたタパレスは涙
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渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Finito Yamaguchi
posted2026/04/04 17:04
元2団体統一王者マーロン・タパレスを攻める小國以載。苦手なサウスポーを克服してアップセットを成し遂げた
終盤も小國は冷静だった。「面白くない試合でも勝ちに徹する」との言葉通り、倒しにいきたい気持ちを抑えた。タパレスの右フックを警戒し、決して深追いせず、フェイントを細かく使いながら試合をコントロールし続けた。最後までタパレスに反撃を許さず終了のゴングを聞くと、満面の笑みを浮かべてグローブを天井に突き上げた。
スコアは96-94、97-93、98-92。試合が終わった瞬間、タパレスはコーナーポストのほうを向いてグローブでロープをつかみ、うつむいたまましばらく動けなかった。目には涙が浮かんでいた。まさか負けるとは思っていなかったのだろう。それでも気を取り直し、小國を祝福した姿はさすが元チャンピオンだと感じさせた。
井上尚弥との対戦は「口が裂けても言いませんよ!」
小國は2017年9月、IBF王座の初防衛戦でサウスポーの岩佐亮佑に敗れ、その後は右拳を2度手術するなど、茨のキャリアを歩んだ。2019年5月に勝利した後は2度の負傷引き分け、続いて初回TKO負けという悪夢を味わい、2025年4月の白星まで6年も勝利から見離された時期もある。
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2025年5月にはホープの村田昴(帝拳/現KOBE長谷川)に敗れ、さすがにこれで終わりかと思われたが、再起戦で世界下位ランカーと激闘の末に勝利。そして「今回こそは負けたら引退」と覚悟して臨んだタパレス戦を制したのだ。一度は世界を極めた選手がこれほど長い夜を過ごし、再び朝日を目にしたケースが他にあっただろうか。
世界への思いを問われた小國は次のように答えた。
「ほんと、長いトンネルだったなという感じで、やっと光が見えてきた感じなので、もう1回世界のリングに立ちたいなと思いますね」
現在、スーパーバンタム級のチャンピオンは4団体すべてが井上だ。井上との対戦を問われた小國はニヤリと笑ってこう言った。
「なに言いますのん、そんなん口が裂けても言いませんよ! おこがましい、おこがましい!」
フェザー級進出を見据える井上との対戦は現実的ではない。ただし、もしオファーがあれば、小國は絶対に断らないはずだ。周囲を元気にさせる明るさと、絶対にブレない芯の強さこそが、このボクサーの魅力である。

