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「あなたがそれを作ったのです」坂本花織に海外記者が伝えた言葉…坂本はなぜ選手、関係者から愛されたのか? 最後の世界選手権で見せた“最高の演技”
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松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byGetty Images
posted2026/04/02 11:03
世界選手権で有終の美を飾った坂本花織
世界選手権初優勝の日とは“対照的”だった
最高の演技をもたらした力は、中野コーチの言葉にもあった。
フリーの直前、坂本にこう語りかけたという。
「私と、小林さんのために滑ってね」
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「小林さん」とは日本スケート連盟強化副部長の小林芳子氏のこと。今季限りで定年を迎えることになっていた。
言葉の真意を、中野コーチはこう話している。
「自分のためには滑れないけれど、人のためには滑れる子なので」
その中野コーチは、得点を待つ「キスアンドクライ」で優勝が決まったあと、立ち上がって喜びからはしゃぐ坂本につられて一緒に立ち上がり、喜びを分かち合った。2022年の世界選手権で初めて優勝したとき、思わず立ち上がった坂本を落ち着かせようと椅子に引き戻したのとは対照的だった。
千葉が語る坂本「フィギュアを一段階上に」
オリンピックに3度出場し、銀メダル3、銅メダル1と、計4つのメダルを獲得。
世界選手権は7度出場し、2022年からの3連覇を含め金メダル4、銀メダル1。全日本選手権では2021年から今シーズンまでの5連覇を含め6度優勝。一時代を築き上げた。
4回転ジャンプやトリプルアクセルは跳ばなかった。
でも、自分が何をやるべきか、どう伸ばしていくかを思い定め、とことん成長を期してスケートに励んだ。自分のスタイルを模索し、完成を志した。やがて、圧倒的なスケーティング、幅と流れのあるジャンプを備え、技術点での高い加点、世界選手権でも10点満点がいくつも並んだ演技構成点に示されるように、すべての面を磨き上げた。
それは簡単なことではない。険しい道のりと言える。高難度のジャンプを目指すのが挑戦なら、坂本の取り組みもまた、困難なことへの挑戦であった。その過程を経て、自分のものとして技術を、表現を習得しながら、ついに体現することができた演技がある。
今大会では、会心の滑りで坂本に次ぐ今季世界ランキング2位となるハイスコアをたたき出し、銀メダルを獲得してともに表彰台に上がった千葉百音の演技も忘れるわけにはいかない。
千葉は坂本について、こう語る。
「演技自体がフィギュアスケートの魅力を十分に伝える、観る人全員を圧倒する、一段階上にあげてくださった存在だと思います」

