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坂本花織25歳が泣いていた演技直前「日本が大変なことになる」「緊張半端なかった」全日本選手権“会心の優勝”のウラにあった「GPファイナルの失敗」
text by

松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto
posted2025/12/25 11:02
全日本選手権での自身最後の演技を、完璧に締めくくった坂本花織
「誰の成績やろ。にやにや」
ミラノ・コルティナ五輪代表を決めたことで、1つの記録も創り上げた。オリンピック3大会出場だ。日本女子では史上初になる。公言はしていなかったが、ひそかに目標にしていたという。
「北京(オリンピック)の後に『4年後を目指す』と言った時点で、そういえば3回目はいないなと思って、これは絶対達成したいなって思いました」
「有言実行じゃなく、無言実行で。お姉ちゃんとかには『ひっそり目指すわ』って言ってたんですけど。実際それがかなったので、また自分のウィキペディア見て、『誰の成績やろ。にやにや』みたいな感じになるなと思いました」
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と笑顔を見せる。
今回は、今シーズン限りでの引退を表明している坂本花織にとって、最後の全日本選手権だった。演技後、坂本は顔を覆い、感情の昂ぶりをみせた。
「演技している最中は本当に演技に集中して、終わってからやっと、この大会で初めて『これが最後なんだ』って思って。(顔を覆ったときは)大変な経験いっぱいしたけど、今日も乗り越えたなっていう気持ちと、拍手が鳴りやまないのを聞いていて、たくさんの人に支えてもらってたんだなってすごく感じていました」
場内にはたくさんのバナータオルが掲げられ、拍手と歓声がやまなかった。この日の演技を、そして今日までの歩みを称える拍手と歓声であった。
五輪での“パーフェクトな演技”を目指して
最後の全日本選手権が終わって切符を手にした今、見据えるのは3度目の大舞台だ。
圧巻の演技であり突出した得点ではあったが、4分の1回転が不足していたジャンプもあり、真の意味でのパーフェクトではない。
それはのびしろでもある。中野コーチがエールをおくる。
「もう少しちょこちょこあったので、これを完璧にしてほしいと思います。たぶんできると思います」
坂本も言う。
「本当にクリーンな演技ができるように、自分で自分に活を入れて、先生にも入れてもらって、これ以上はないくらいにしたいと思います」
完成形を実現できたとき、思い描く夢は、現実となる。最後の全日本選手権は、坂本花織の強さをあらためて示し、そして4年に一度の大舞台への明るい道を示す時間でもあった。
(撮影=榎本麻美)


