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坂本花織25歳が泣いていた演技直前「日本が大変なことになる」「緊張半端なかった」全日本選手権“会心の優勝”のウラにあった「GPファイナルの失敗」
text by

松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto
posted2025/12/25 11:02
全日本選手権での自身最後の演技を、完璧に締めくくった坂本花織
会心の演技のウラに「GPファイナルでの失敗」
しかも坂本の前滑走者、島田は、4回転トウループの転倒はあったものの、冒頭のトリプルアクセルをはじめ他の要素はすべて成功。合計で228.08点と、非公認ながら坂本の今季世界最高点を超える点数を出した。ミスはなおさら許されなかった。
その中でリンクに立ち、重圧をものともせず、会心の滑りを演じた。ジャンプ、スピン、ステップ、伸びやかなスケーティングの上に繰り広げる演技は、他の選手から突き抜けた得点が出るにふさわしかった。
不安と緊張を克服できた要因はどこにあるのか。1つはグランプリファイナルで得た学びだ。
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ショートプログラムを終えたあと、坂本はこう話している。
「緊張してなかろうが、緊張してようが、今日はこういう自分なんだなっていうのを受け入れてやったら、気持ち的にも負担がなくできるんじゃないかと思いました」
グランプリファイナルでは緊張がなさすぎて失敗した、もっと緊張があったほうがいいと分析した。でも緊張の度合いはコントロールしきれるものでもない。今の状態を受け入れることを全日本選手権では試みていた。
「やっぱりあれだけ追い詰められて…」
もう1つは、練習はしっかりやってきた、だから「自分を裏切らないように」という思いだった。
むろん、これまでのキャリアでの経験やそこで得てきたことが土台であっただろう。成功も失敗も糧としてきたからこその、強烈なプレッシャーのもとでの好パフォーマンスにほかならない。しかし言葉にするのは簡単でも、実現するのはたやすくはない。
いつもは試合後、厳しめのコメントをする中野コーチも、こう評している。
「今日はやっぱり120点だと思います。私にはできません」
「やっぱりあれだけ追い詰められて、1つでもミスしたら若い子たちに負けてしまう、切羽詰まったところで力を出し切れる人っていうのは、なかなかそんなにいないんじゃないかなと思います」
その域に達したと認める、坂本への手放しの賛辞であった。


