炎の一筆入魂BACK NUMBER
「グラウンドに入る資格がない」筒香嘉智の言葉を借りて諫言を呈したカープ中崎翔太が、いま感じているチームの危機
text by

前原淳Jun Maehara
photograph byJIJ PRESS
posted2025/12/08 06:00
今季の中崎は51試合に登板し、防御率2.36の成績を残した
3連覇へのうねりは、2015年に広島に帰ってきた黒田博樹(現・球団アドバイザー)と新井貴浩(現・監督)の2人のベテランによって生まれた。メジャー球団からのオファーを蹴って復帰した黒田は、実績におごることなく広島流を重んじた。自身の登板に向けた調整には、周囲にも緊張感を与えるほど全神経を注いだ。一方、自由契約という形で復帰した新井は、違う形で広島流を示した。ベテランでありながらも練習から手を抜かず、グラウンド上でも全力疾走を怠らなかった。若い選手たちは誰に言われるでもなく、一球一打への執念を学んだ。それが広島の強さの根源となった。
両者がいなくなって広島が優勝を逃した19年以降、中崎自身も苦しんだ。勤続疲労による右ひざ痛が悪化し、19年オフに手術を決断。打者を押し込んでいた真っすぐの球威は落ち、武器だったスライダーの切れ味も落ちた。抑えを奪い返すどころか、二軍でもがく日々が続いた。
投手は繊細と言われるように、完成されたものが崩れたとき、再び精巧につくり上げる作業は一朝一夕では成し得ない。気が遠くなるほどの作業に向き合うしかなかった。
ブルペンを支える存在
ADVERTISEMENT
「ケガした当初はもうダメだなと思ったこともありました。それでも真剣に向き合ってくれる人がいたので、こんなに情熱を持ってくれる人がいるなら復活したい。それに、一緒に戦ってきた人たちはいなくなったけど、僕はケガをして結果が出なくても残してもらった。残された身としては、その人たちの分までと」
ともに中継ぎとして3連覇を支えた今村猛や一岡竜司がユニホームを脱いだことも発奮材料となった。決して他人事ではない危機感は常にあった。
中崎が研鑽の日々を重ねる姿を、来季から広島選手会長を務める島内颯太郎は自主トレをともにするなどして身近に感じ取ってきた。
「シーズン中から準備が徹底していて、日頃から決して手を抜かない。自主トレ期間のこの時期はどうしても妥協したくなるところもあるんですけど、ザキさんにはそれがない。ほかの選手を『ザキさんがやっているからやらないと』という空気にしてくれる。ブルペンではずっと緊張していてもいけないので、若い選手を和ませてくれたりもしますし、メリハリがすごいなと。まだまだ学ぶことがたくさんある」

