第102回箱根駅伝(2026)BACK NUMBER

前回1秒差で届かなかった箱根駅伝…「一日たりとも忘れたことはない」東京農業大学のエース・前田和摩の1年越しの進化と決意 

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佐藤俊

佐藤俊Shun Sato

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photograph byYuki Suenaga

posted2025/12/15 10:00

前回1秒差で届かなかった箱根駅伝…「一日たりとも忘れたことはない」東京農業大学のエース・前田和摩の1年越しの進化と決意<Number Web> photograph by Yuki Suenaga

前回の悔しさをバネに成長し、自身2回目の箱根駅伝に臨む前田和摩

 前田がチームとしての完成度の高さを感じたのは、夏合宿だった。

「チームとして力が上がったのもありますが、目標に向けてひとつにまとまっていくという点でやっとチームになってきたと感じました」

 練習において全員でやり切ることを徹底したことでチーム力が上がり、箱根駅伝予選会に向けてチームが一枚岩になった。小指監督は「みんなの意識がひとつになり、いいチームになった」と手応えを感じたという。

 そして臨んだ箱根駅伝予選会で、小指監督が「最強」と謳うチームは予想以上の力を見せた。前田は日本人学生トップ集団でレースを進め、14位でフィニッシュ。以下、21位に栗本航希(3年)、27位に原田洋輔(4年)、30位に深堀優(4年)、41位に小島岳斗(4年)、92位に井坂と続いた。意地を見せた3、4年生の5人が50位以内で走り切り、チームは6位で予選通過を果たした。

 前田の表情には安堵の笑みが広がった。

「箱根駅伝予選会は何が起こるのかわからないので、ホッとしました」

 その言葉は、前回の1秒差の経験がもたらした前田のトラウマを裏づけるかのようだ。この箱根駅伝予選会前に左膝の上を痛め、万全の状態ではなかった前田が好走を見せた要因は、彼のチームへの強い意識とポテンシャルの高さにある。

「ベストの状態ではなかったので、日本人トップというより『外さずに』ということを念頭に置いて走りました。1秒でも前へという意識で粘り切れたので良かったです」

自信を取り戻したエース

 箱根駅伝では前田が軸となり、100位内に入った6人の選手がその脇を固めていくことになるだろう。同時に菅原匠人、菅野ら次の東農大を担う2年生の奮起が必要になる。

 前田は箱根駅伝の経験は1年時の1回だけで、しかも苦い思い出しかない。大会前の11月末に故障し、ギリギリの状態で出場して7区13位に終わり、悔しさを噛みしめた。

「箱根駅伝ではシード権を取るのが目標のひとつなので、気を抜かずにチームに貢献できる走りが出来ればいいと思っています。個人的には2区を走って、他大学のエースと戦って区間賞を目指したい」

 前田は自信に満ちた表情でそう語る。

 2区を走れば強い相手との競り合いで前田の能力が存分に引き出され、とんでもないレースを見せてくれる可能性もある。期待は膨らむばかりだ。チーム戦略においても前田の2区は重要になる。前半区間で遅れてしまうと事実上レースが終わる可能性すらあり、目標であるシード権の確保は遠のく。

 2年前はエースの前田だけがクローズアップされたが、今季の東農大は前田を支える脇役が非常に強固になった。エースを軸に成長を遂げた東農大が目標を達成し、歓喜の「大根踊り」を披露できるか注目したい。

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