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全国に届け。ハローキティのリボンに込められた思い。Jリーグ「フェアプレーリボンプロジェクト」がもたらした笑顔の理由

posted2025/12/12 11:30

 
全国に届け。ハローキティのリボンに込められた思い。Jリーグ「フェアプレーリボンプロジェクト」がもたらした笑顔の理由<Number Web> photograph by Hirofumi Kamaya

text by

藤森三奈

藤森三奈Mina Fujimori

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photograph by

Hirofumi Kamaya

日本サッカー協会(JFA)とJリーグでは、毎年9月をリスペクト・フェアプレー強化月間とし、「JFAリスペクト・フェアプレーデイズ」を開催。日本サッカー協会(JFA)とJリーグをはじめとしたサッカーファミリーが共にサッカーを通じて「リスペクト」の大切さを訴えている。今年はJリーグが、サンリオと一緒に「フェアプレーリボンプロジェクト」として全60クラブでの施策を行った。各会場に起こった「ハローキティ旋風」がもたらしたものをJリーグの鈴木章吾執行役員に振り返ってもらうとともに、JFAが考えるフェアプレーの課題と展望を宮本恒靖会長に聞いた。

小雨降るスタジアムに集う、温かな笑顔

 9月下旬、小雨の降るヨドコウ桜スタジアムの場外エリア。セレッソ大阪対京都サンガF.C.の試合前、ひときわ賑わう人だかりができていた。

 その中心にいるのは、ハローキティ。子どもを連れたファミリー、カップル、女性同士など幅広い世代が長い列を作って写真撮影の順番を心待ちにしている。

「セレッソの公式サイトでキティちゃんが来ることを知って、急遽試合のチケットを取りました。セレッソとサンリオが大好きな私にとっては最高のイベントです」と語る女性。

「フェアプレーリボンプロジェクトの発表を見て、絶対にグッズを買いたいと思って来たんです」「キティちゃんを見るとニコニコになるよね」と顔を見合わすカップルの姿もあった。

 撮影を終えた人々に共通するのが、どこか誇らしげで温かな笑顔だった。

「みんななかよく」の理念が結ぶ共創

 笑顔を世界中に届けたい――。

 企業理念「みんななかよく」のもと「One World, Connecting Smiles.」(一人でも多くの人を笑顔にし、世界中に幸せの輪を広げていく)をビジョンに掲げるサンリオと、 「フェアプレーの精神」を大切にするJリーグが共創したのが「フェアプレーリボンプロジェクト」だ。

 その目的と背景について、Jリーグでマーケティング領域を担当する鈴木章吾氏に話を聞いた。

「Jリーグは2026年よりシーズンの開催時期が8月~翌年6月へと移行します。それに合わせて、私たちは改めて“自分たち本来の価値”や“ブランド”を見つめ直すための議論をしています。その過程で、老若男女を問わず、誰もが安心して観戦できる雰囲気や環境――それは世界的にも唯一無二の価値だと再認識しました。サンリオの『みんななかよく』という理念とも重なる部分がありました」

 そうした想いが、今回の共創につながったという。

「リスペクト・フェアプレー月間である9月にサンリオとご一緒できれば、大きなうねりを生み出せるのではないかと考えました。Jリーグだけで発信できる範囲には限界があります。『リスペクト』という社会的にも意義のあるメッセージを伝える際、サンリオの力をお借りすることで、これまで届かなかった多くの方々へ広げることができる――それがこのプロジェクトの目的でした」

全60クラブの一斉展開が生んだ大きなインパクト

 今回のプロジェクトでは、ハローキティがJリーグの一部試合会場に登場しただけでなく、サンリオが全60クラブへのリスペクトを込め、ハローキティのリボンに各チームカラーやシンボルを取り入れた『フェアプレーリボン』をデザインしたクリアファイルが、計約68万枚無料配布された。

 会場の大型ビジョンには、ハローキティが登場するフェアプレー映像が流れ、その「フェアプレーリボン」をあしらったコラボグッズもTシャツ、ぬいぐるみ、アクリルキーホルダー、マフラータオル、巾着、ボールペンなど、多彩なラインナップが販売された。

 その人気は想定を超え、多くの会場でグッズは即完売。各会場を巡ってコラボグッズを収集するファンの姿も見られたという。

 鈴木氏は、その成果を次のように振り返る。

「今回はJ1、J2、J3の全60クラブが一斉に取り組んだことが特徴であり、成功の大きな要因だったと思います。速報ベースではありますが、Jリーグとサンリオ両社の公式XやYouTubeなどを合わせたコンテンツのインプレッション総数は約500万。60クラブで行った施策としては非常に高い水準で、確かな手応えを感じました。また、期間中の新規来場者は約18.4万人。例年、秋は集客が難しい時期ですが、今年は落ち込むことなく、集客・話題性ともに非常に良い成果を上げることができました」

 グッズ販売の勢いは見込みをはるかに超えていたという。

「追加生産などの対応をとりましたが、それでも一部行き渡らなかったグッズもあり、サポーターの皆さまには申し訳ない思いです。それでも、60クラブが一体となって展開したことで生まれたインパクト、そして“フェアプレー”というコンセプトへの共感が大きな原動力になったと感じます。ビジュアルの強さもあり、お客様の心にしっかり届いた結果、購買にもつながりました。

 社会的メッセージの発信とビジネスとしての成果を両立できたことは、たいへん価値のある結果だったと思います」

 ヨドコウ桜スタジアムでは、「J2の長崎にも行きました。J2でもJ3でも展開してくれているのが嬉しい。キティちゃんをきっかけに、Jリーグやこのプロジェクトの輪が広がっていけばいいですね」と語る女性の姿があった。

 サンリオの「サッカーファンの方も、そうではない方も、フェアプレーを身近に感じ、自分ごととして考えられるようにしたい」という思いが、Jリーグとの共創を通じて確かな形となって表れている。

リスペクト――名前を覚えることから始まる相互理解

 JFAとJリーグが「リスペクトプロジェクト」を立ち上げたのは2008年のこと。

 さらにJFAは2014年から、毎年9月に「JFAリスペクト・フェアプレーデイズ」を開催し、期間中はさまざまな取り組みを通じて「リスペクト(大切に思うこと)」の重要性を発信している。

 日本サッカー界におけるフェアプレーの成熟度はどの程度か――。また、現在の課題について、JFA会長の宮本恒靖氏に話を聞いた。

「私がプロになったのはちょうど30年前、1995年のことです。当時、レフェリーから『3番!』と呼ばれたことがありました。自分には名前があるのに背番号で呼ばれることに違和感を覚え、それを機にレフェリーの名前を覚えるようになったんです。『〇〇さん、今のファウルですか?』と尋ねるのと、『レフェリー、今のファウルかよ』では、試合の雰囲気も全く変わります。ピッチでともに試合を創っていくレフェリーを名前で呼ぶことも大切だと気づきました。監督のときは、アシスタントレフェリーや第4の審判員も名前を覚えて試合に臨むようになりました。一緒に仕事をする人の名前をきちんと覚えることも、リスペクトにつながると考えています」

 JFAが目指す「誰もが安心・安全にサッカーを楽しめる環境を作ること」。その根底には「すべての人をリスペクトする」という理念があるという。

根深い課題と未来への展望

「私の現役時代と比べて、選手や指導者、サポーターの意識は大きく変わりました。それでも、まだ根深い課題もあります。現在もレフェリーへの暴言や、指導者から子どもへの暴言・暴力が問題になっています。背景には、リスペクトの不足があると感じます」

 特に小学生年代の指導には、古い風習が残るケースがあるという。

「指導者が過去に自身が受けた指導を正しいものとして、無意識に繰り返してしまうことがあります。時代の変化とともに指導の考え方も変わります。指導者ライセンスの取得時にリスペクトの重要性を伝えるセッションもありますが、たとえば主に12歳以下の子どもたちを指導するD級ライセンスでは、一度ライセンスを取得すると、現状のシステムではリフレッシュ研修が義務付けされておらず、最新情報に触れたり我々が伝えたいことがタイムリーにお伝えできる機会が多くありません。今後についてはD級にも定期的にリフレッシュ研修の機会を設けていくこと、常に学び続けることができる機会を整備するよう検討しなければいけないのではないかと考えています。また、セーフガーディング等については何度でも伝えていく必要があります。ヨーロッパにはそのようなプログラムがありますので、我々も一段階視座を上げて取り組む必要があります」

 JFA会長に就任して1年7カ月。宮本恒靖氏は、その立場だからこそ見えてきた日本サッカー界の課題について語る。

「たとえば、ある県でクラブを立ち上げて県協会にチーム登録しても、大会に出場するための地域や市区町村の連盟への登録を認めてもらえないため、リーグ戦に出場できないといった相談を受けることがあります。大人の事情により子どもたちがプレーする機会を奪われてしまっているような状況が発生してしまっています。こうした問題も、根底にリスペクトの精神があれば解決の糸口が見えてくると思うのです」

 今後「JFAリスペクト・フェアプレーデイズ」を通じて実現したい未来について聞いた。

「もう10年以上前になりますが、ヨーロッパに住んでいるときに子どもと一緒にスタジアムへ行ったことがありましたが、少し暴力的というか、差別的とも思えるような言葉も聞こえてきて、あまり子どもを連れていきたいと思えるような環境ではありませんでした。JリーグやWEリーグは、世界に誇ることのできる安心安全な観戦環境を作ることができていると思いますが、もっと女性や子どもが来やすいスタジアムにしていきたいですね。それから、日本代表のロッカールームが使用後きれいであることは、いつもほめていただきます。クラブが国際大会に参加する時もやっていると思いますが、日本の素晴らしい文化だと思いますのでぜひ広げてほしいですね」

 また、宮本会長はJリーグ60クラブとサンリオのコラボレーションについても触れた。

「60クラブ全てで展開するプロジェクトは、全国津々浦々にリスペクトのメッセージを届ける意味でも大きな価値があります」

 ハローキティのリボンは「なかよしのしるし」。かわいらしいこの象徴には、サッカーの現場で大切にしたいリスペクトの理念が込められている。JFAとJリーグが掲げる「誰もが安心してサッカーを楽しめる環境」を実現するための取り組みは、スタジアムの外にも内にも広がりつつある。サンリオとJリーグが届けるメッセージが、全国のクラブ、そして次世代の選手や指導者たちの心にまで届けば、日本サッカーの未来を支える礎となるだろう。

2025年8月、サンリオはJリーグとフェアプレーパートナー契約を締結しました。本プロジェクトは、Jリーグが大切にする「フェアプレーの精神」とサンリオの企業理念「みんななかよく」にお互いが共感し、実施するものです。その一環として、毎年9月に実施されている「JFAリスペクト・フェアプレーデイズ」とも連動し、9月より「フェアプレーリボンプロジェクト」を展開しました。プロジェクトビジュアルは、Jリーグ全60クラブのエンブレムを、ハローキティのリボンで表現しています。

©2025 SANRIO CO., LTD. APPROVAL NO. CB250597

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