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“沖縄尚学に大敗”エナジックの誤算「太ももパンパン…まるで江夏豊」最速150km“2年生の怪物左腕”末吉良丞とは何者か? 名将も脱帽「相手が一枚上」
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松永多佳倫Takarin Matsunaga
photograph byTakarin Matsunaga
posted2025/07/17 11:02

最速150km左腕の末吉良丞(沖縄尚学)。2年生ながらエナジックの強力打線を圧倒し、甲子園への切符を手にした
代表候補イーマンを三球三振…打っても4打点
3回表に先頭打者のイーマンが1ボール2ストライクから身体を崩されながら内野安打で出塁して以降、ストレートを主体としたピッチングに切り替えた末吉に力で抑えられる。4回裏の沖縄尚学の攻撃では、二死満塁で九番の末吉に回ってくる。今大会はまだ一本もヒットを打っておらず、「バッティングにはあまり自信がない」と話す末吉だが、構えはどう見ても九番バッターのそれではない。
アウトコースのストレートを逆らわずにとらえて、ショートに痛烈な打球を飛ばす。ショートはバウンドが合わず、2点タイムリー内野安打。さらに6回裏にも二死一、三塁で末吉に回る。完全に“お膳立て”が整っているようにも感じられた。1ストライクから2球目のカーブを引っ張り、一塁線を破るツーベースで2点追加。これで試合の趨勢は決した。エースが投球のギアを一段階上げて、おまけに2打席連続の2点タイムリーで4対1。乗らないはずがない。
点が入ると試合は動く。7回表のエナジックの攻撃。二死一、二塁で末吉が迎えるバッターは、この日2安打のイーマン。役者は揃った。ここで1点でも入れば、エナジックにもまだまだ勝機が残る。だが、末吉は唸りを上げるストレートでポンポンとストライクを奪う。一球遊んでくるかと思いきや、三球勝負のスプリットで見逃しの三振。下級生とは思えない風格を見せつけた瞬間だった。
記者席からも感嘆の声「まるで江夏豊」
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8回の末吉はさらにギアを上げて、140km台後半のストレートでグイグイと押しまくる。この日最速の149kmをマークして三者三振。ネット裏の記者席からは「おお~」と感嘆の声が漏れる。
隣にいた知り合いの記者がボソッと「江川卓の高校時代ってこんな感じだったですかね」と呟いた。だが、個人的には江川ではなく江夏豊を想起した。同じ左腕で、背格好もよく似ている。そしてマウンドでの佇まいも、どこかふてぶてしさがある。カメラのファインダー内に映る末吉がなんとも言えず様になっており、何枚も何枚もシャッターを切った。エナジックの取材に来ているのに、知らず知らずのうちに末吉に魅了されていた。
完全試合やノーヒットノーランではなく、記録的な数の三振を奪ったわけでも、160km近い球を投げたわけでもない。しかし、ギアを上げた瞬間の迫力に底知れないポテンシャルを感じさせる。終盤に至っては、マウンドに王様が君臨しているかのように見えた。