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「あれは監督批判か?」→完全無視…野村克也監督の掌で転がされて15勝したヤクルト田畑一也が“トレード直訴”に至ったワケ「もう働く場所が…」
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佐藤春佳Haruka Sato
photograph bySankei Shimbun
posted2025/07/12 11:01

完封勝利を挙げて野村監督と握手する田畑。しかしこの好投のウラには野村監督の意外な人心掌握術が巡らされていたという
ノムさんの人心掌握術
野村監督のもとで野球をやったのは移籍した1996年からわずか3年間。それでも「俺にとってはめちゃくちゃ濃い時間だった」と振り返る。
当時のヤクルトの選手たちはみんな、スポーツ紙の報道を毎日気にしていた。野村監督が自分をどう評価しているのか、記者にどんな言葉を話したのかを知りたかったからだ。
「当時はほぼ、全紙読んでました。みんな結果を出そうと思ってやっているわけだけど、野村監督は結果の良し悪しだけでなくその過程の評価もしてくれる。本当に選手をよく見ているんです。そしてチームに必要だと思う選手は、たとえ一度や二度失敗しても必ず取り返すチャンスをくれる。本当に辛抱強いし、人の心を動かすのが上手い方でした」
「あの態度は監督批判か?」
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移籍2年目の1997年には忘れられない出来事があった。優勝争い真っ只中の9月3日、横浜戦。先発した田畑は、初回から毎回先頭打者にヒットを打たれるなどピリッとしない投球が続き、3回1死一塁の場面で交代を告げられた。
「交代と言われた瞬間、腹が立って思わずボールをピュッてバックネットの方に投げたんです。そうしたら、ちょうど審判に交代を告げてベンチに戻ろうとする野村監督に当たりそうになった。ベンチ裏に戻ってもイライラが収まらずに荒れたんです。思わずガンガンガンって……」
翌日の練習中、野村監督に呼び止められた。
「この前の態度はなんや。監督批判か?」
真っ青になって背筋を正し「違います。自分に腹が立っただけです」と答えたが、指揮官は渋い表情を崩さなかった。