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「あれは監督批判か?」→完全無視…野村克也監督の掌で転がされて15勝したヤクルト田畑一也が“トレード直訴”に至ったワケ「もう働く場所が…」
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佐藤春佳Haruka Sato
photograph bySankei Shimbun
posted2025/07/12 11:01

完封勝利を挙げて野村監督と握手する田畑。しかしこの好投のウラには野村監督の意外な人心掌握術が巡らされていたという
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監督もコーチも何も言ってくれない
そこから苦い時間が始まった。1日たち、3日たち、5日たっても次の登板予定が告げられない。それどころか、野村監督も当時の尾花高夫投手コーチも田畑に何一つ言葉をかけないのだ。
「本当に何にも言わないんです。無視です。でも自分が悪いのはわかっているので、ミニキャンプのつもりで走り込んだり投げ込んだりしていました。チームの優勝マジックが減っていくなかで、自分は一軍にいるのに何もできない。本当に長く感じた時間でした」
10日目の9月13日についに出番が来た。「これは燃えるしかないと思った」という巨人戦で1安打完封勝利。外角低めに制球されたストレートで、相手の主砲・松井秀喜を手玉に取った。
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翌日の新聞に、野村監督のこんなコメントが載っていた。
「田畑は横浜戦の無念が花開いたな。きょうは今シーズン、ナンバーワン(の出来)や」
優勝、最優秀バッテリー賞
それから2週間後の9月28日、ヤクルトは2年ぶり5度目のセ・リーグ優勝を決めた。胴上げの輪の中に田畑もいた。この年チームトップの15勝を挙げ、古田敦也とともに「最優秀バッテリー賞」を受賞した。野球人生で最高の瞬間だった。
「本当に嬉しかったですね。それまで2勝しかしていなかったピッチャーが……やはり野村監督との出会いは本当に大きな出来事だったと思います」
地獄から天国へ駆け上がった田畑。しかしプロ野球人生の波乱はまだ終わらなかった。