革命前夜~1994年の近鉄バファローズBACK NUMBER
野茂英雄のメジャー初勝利を「抱き合って喜んだ」…野茂が去り“最下位転落”した近鉄同僚の思い「また野球をできてよかった」「すごいヤツだよな」
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喜瀬雅則Masanori Kise
photograph byKoji Asakura
posted2025/05/30 11:04

野茂はドジャースでセンセーションを巻き起こし、かつての同僚たちは様々な思いを抱く。だがこの事件は単に美談で収まるものではなかった
その喧噪の中、野茂は夢の世界への切符を、まずはつかんだのだ。
白地に、ブルーの「Dodgers」のロゴ。伝統のユニホームに袖を通した野茂は、名物オーナー、ピーター・オマリーの横で満面の笑みを浮かべていた。
また野球ができてよかった
阿波野は何より、野茂の“現役続行”への安堵感が先に立ったという。
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「まず、ドジャースのユニホームを着て、ピーター・オマリーさんとの入団会見のシーンを見たときに『よかったな』と。プロ野球選手として、またできるわけだから」
佐野には、一抹の不安がよぎっていたという。
「マイナー契約だから、マイナーキャンプのままで終わったら、かわいそうだよな、ということだけしか思っていなかったんです。それがいきなり、招待選手でメジャーキャンプに呼ばれたからね。もう、それでよかったなと。あとはやるだけやなと。そりゃ、放っておいてもやりますよ。メジャーキャンプで野茂を見てくれたら、もう、絶対にメジャーに残れると思っていたからね」
その見立て通り、野茂は開幕から先発ローテーションの座をつかんだ。
初勝利を「抱き合って喜んだ」
5月2日のメジャーデビューから1カ月後の7試合目、現地時間6月2日のメッツ戦がメジャー初勝利だった。
群馬・前橋での日本ハム戦を前に、光山は早朝から石井と一緒に、生中継のテレビにかじりつき、その雄姿を見届けたという。
「勝った瞬間、石井さんと抱き合って喜んだ記憶がありますね。まあ、これくらいは、当然、やると思っていましたけど」