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「公立校で学んだ野球」が名門・横浜に…“松坂大輔5連続完投”センバツ優勝から27年、ベンチ入り17人出場「人間、みんな同じではありません」
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間淳Jun Aida
photograph byJIJI PRESS
posted2025/03/26 06:00

打ってはタイムリー、投げては4番手で沖縄尚学に勝利した横浜高校の奥村
「自分たちに流れを持ってくる投球をしようと意識しました。三振を取れたのはびっくりしましたが、自分の役割を全うできて良かったです」
山脇の投球は8割以上が変化球だった。カーブ、スライダー、フォークを駆使してバットの芯を外す投球を特徴とする。先発の織田は速球で押すタイプだったこともあり、沖縄尚学の打者はタイミングが合わない。山脇は打者9人に対して許した走者は四球の1人だけ。打たせて取るタイプにもかかわらず、4つの三振を奪った。
「監督さんやコーチ陣から総力戦になると言われていたので、いつでも行ける準備を投手陣も野手陣も心掛けていました。自分も早めに準備しました。織田の降板が予想よりも早く、普段よりも早いイニングで登板しましたが、準備は100%できていました」
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山脇の投球が攻撃のリズムを生み、横浜は7回表を終えて点差を4点に広げた。「山脇は今一番良いと選手が言っていたくらい調子が良い」という村田監督の期待に応えた。
投手陣でバトンをつないで勝ち切れた
しかし、沖縄尚学は食い下がる。山脇からバトンを引き継ぎ、エースナンバーを背負う奥村頼人投手が捕まる。7回裏に3本の安打を許して2失点。さらに、8回は先頭打者からの3連打で1点を失って、なおも犠打で1死二、三塁と一打逆転のピンチを招く。
ここで、村田監督が次のカードを切る。奥村を左翼の守備に戻し、背番号18の片山大輔投手をマウンドに送った。指揮官が「思い切りが良く、チームを盛り上げる存在でもある」と話す片山がアウトを1つ取ると、奥村が再びマウンドへ。沖縄尚学の3番・新垣瑞稀選手に7球全て速球を投じて打ち取った。
「自分でピンチをつくってしまいましたが、もう一度マウンドに送り出してもらい火が付きました。今は自分が背番号1を着けていますが、投手陣全員で切磋琢磨してきました。最後はみんなの思いを背負って投げました。投手陣でバトンをつないで勝ち切れたのはチームの成長だと思います」
「人間、みんな同じではありません」
もちろん、エースナンバーを背負う責任感や矜持はある。ただ、OBの松坂氏のように1人で投げ切る必要はない。チームが勝利する確率を上げるには、個々の投手が持ち味を発揮する方法がベストだと考えている。
「チームとして負けない力がすごくついていると感じます。自分自身が目指すのも負けない投手です。投手は球速や完封などが注目されがちですが、自分は負けない投手を理想としています。その成果が、この試合で出せました。背番号1番をつけているからには、チームが負けるようなピッチングはできませんから」