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ゴング後にまさかの“不意打ち”…それでも怪物バレロが“倒せなかったボクサー”本望信人の執念「1ラウンドでKOされるとか…オレの何を見てきたんだ」 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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posted2025/03/11 12:21

ゴング後にまさかの“不意打ち”…それでも怪物バレロが“倒せなかったボクサー”本望信人の執念「1ラウンドでKOされるとか…オレの何を見てきたんだ」<Number Web> photograph by JIJI PRESS

2007年5月3日、WBA世界スーパーフェザー級王者エドウィン・バレロに挑戦した本望信人。「バレロ絶対有利」の下馬評を覆す激闘を繰り広げた

“1ラウンドKO負け”予想に「オレの何を見てきたんだ」

 本望は右のタイミングを計りながら、何とかチャンスを作ろうとトライし続けた。しかし2ラウンドに早くも目の上をカットし、出血してしまう。顔面のカットは本望のアキレス腱だった。デビュー戦からカットを繰り返し、両眼の上はきわめて切れやすい状態になっていた。実況アナウンサーは「150針以上縫った」と視聴者に伝えた。

「数は分からないですけど、試合のたびに切って、何度か手術もしているので150針ではきかないかもしれません」

 本望は劣勢となり、4回以降は出血がひどく、いつ止められてもおかしくないピンチに陥っていく。バレロはクリンチの際、したたかにグローブで挑戦者の傷口をこすった。さらに4回終了のゴングが鳴った直後、すれ違ってコーナーに帰る際には本望の腹を右のグローブで叩いた。ゴング後に互いがグローブをタッチし合う光景はよく見られる。いわばエールの交換のようなものだが、この時は叩き方が少し強いようにも見えた。

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「ゴングが鳴った瞬間、目と目が合ったんです。それですれ違うときにバレロがドンと。あれ、効いたんですよ。みぞおちです。あの試合で唯一効いたパンチです。引きずるほどではなかったですけど、ちょっとズルいなとは思いました」

 バレロはどこまでも力強く、そして試合巧者でもあった。それでも血まみれの本望は決してあきらめない。絶対にバレロに勝つ。意地とプライドがチャレンジャーにはあった。

「試合前、1ラウンドでKOされるとか、KOされても恥ずかしくないとか書かれて、それは絶対に違うと思ったんです。自分は一回もダウンしたことがない。それなのに簡単に倒されるって、オレの何を見てきたんだと言いたい気持ちがありました。のちに長谷川穂積さん、山中慎介さん、内山高志さん、いろいろな選手の活躍で日本のボクシングの評価って高まったと思うんです。でも、当時は違いました。だからこそ力を見せたかった。自分は日本で重ねてきたキャリアに誇りを持っていたので」

【次ページ】 流血で無念のストップも「楽しかった」と振り返る理由

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