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「スポーツの力って何だろう?」小塚崇彦、畠山健介、中田英寿が能登支援を通じて考えること。「まだまだやれることはある」
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矢内由美子Yumiko Yanai
photograph by日本財団
posted2025/01/31 11:00
支援先の住人が偶然フィギュアスケートファンで「縁を感じた」という小塚崇彦さん
そんな畠山さんは支援活動の移動の際や終わった後には必ず反省会を開いている。
「あんなふうに言ったけど、それで良かったのだろうか」
時には疑念が残ったままになってしまうこともあるという。しかし、仮に正解が見えないとしても100%の力で受け止めることに意味がない訳はなかろう。
現役を終えてからしかできないこともある
実は今回の取材で、小塚さんは能登に行く前にある思いを抱えていたと明かした。
「スポーツの力って何なんだろう?」
2016年3月に27歳で現役を引退した小塚さんは、トヨタ自動車の社員としてパラリンピックに関わる仕事をしたり、JOCのスポーツ環境アンバサダーを務めたり、幅広い活動を行なってきた。目の前のことに対して全力で取り組んでいるという自負はもちろんある。一方で、“現役引退後のアスリートである自分がそこにいることに意義はあるのだろうか”という疑問を抱いているのも事実だった。
「正直に言うと、いろいろな活動の中でずっと考えてきたのは『スポーツのOBやOGは必要なのだろうか』ということでした。現役の時は、頑張る姿を見せることで、みんなにも頑張る気持ちを呼び起こしてもらうことができていたと思うのですが、いざ現役を離れたら何ができるのか」
明確な答えを見つけられずに6年、7年と過ぎていった。そんな時に出合ったのが、HEROsプロジェクトの災害支援チームだった。
小塚さんには能登支援の現場に行って気づいたことがある。
「HEROsのアスリートの活動を見て分かったのは、現役にしかできないことも、現役を終わってからしかできないこともあるということでした。現役を終えてからしかできないこととは、スポーツを社会によりいっそう溶け込ませていくことなのではないか。今はそう考えています」
引退後の選手こそ、スポーツを通じて学んできたことや身につけたことをしっかりと社会に溶け込ませていけるはずだというのだ。
「引退してからは会社(トヨタ自動車)の中でもずっと模索して、上司の人たちにいろいろなことを整えてもらいながら『小塚崇彦』のキャリアをつくってもらっていました。そのベースがあって出合ったのがHEROs。災害支援チームの活動を通じて、僕は本質的な部分に気づけました」
小塚さんはこの後も能登半島に足を運ぶ予定を既に入れており、「今度は重機を使う機会もあると思います。建物の解体もできるようになっているのでぜひお役に立ちたいですね」と語っている。
期せずして災害支援チームがスタートダッシュを切ることになった24年を振り返り、2017年にHEROsプロジェクトが誕生した際の発起人である中田英寿さんは「災害支援チームの構想も重機講習会のアイデアも、能登半島地震があったから始めたわけではなく、何年も前から議論を進めていたことです。7年間にさまざまな活動を継続してきたからこそ新たな発想につながり、HEROsとしての蓄積があって準備ができるのです」と強調し、このように語る。
「災害支援に関して、アスリートの社会貢献の可視化という部分では確実に成果が出ていると思います。地元の学生アスリートなどを巻き込めたのも大きかったです。でもHEROsへの期待値は非常に高い。だからやれることはまだまだあるとも思っています」
中田さんの口調がどんどん熱を帯びていく。
「その一つはもっと多くのファンを巻き込むことです。サッカーや野球、あらゆるスポーツの試合に集まるファンは、1週間に100万人くらいになるのではないでしょうか。そのファンの意識が選手が行動することで共に変わるとしたら、日本の1%の意識が変化することになるわけです。スポーツの力はそこまで大きな影響を与えられると思っています。国や行政だけではできないことは山積みです。民間じゃなきゃできないことがあるし、できる可能性がたくさんある。それがHEROs(の使命)なのだと思います」
中田さんはアスリートの力を誰よりも信じている。だから目線はつねに高い位置を見据えている。
「HEROsが母体となることで、このプラットフォームで知り合った人たちが一緒にいろいろな活動を始めていくのが重要です。HEROsが親だとしたら、子や孫がどれぐらい増えていくのか。今はトップアスリートの活動が軸ですが、そこに大学生や高校生、社会人まで広がっていくことで人々の意識が変わって、孫もひ孫も生まれてくるような環境になるのが一番大事なんだと思います」
2024年はHEROsプロジェクトにとって、そして活動によって新たな気づきを得たアスリートにとって、次のフェーズへ進むための大きな一歩となった。
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