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東野有紗が告白「喧嘩は一度もないですね」渡辺勇大と“互いをとことん思いやった”13年間…ワタガシペアだから迎えられた「最高の結末」
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto/JMPA
posted2024/08/29 11:04
パリ五輪で銅メダルを獲得し、抱きしめ合った東野有紗と渡辺勇大
「プレーをしていて、最初から息が合いました」(渡辺)
練習すら満足にしない中で臨んだ大会にもかかわらず、互いに心地よく重ねられるプレー。奇跡的とも言える出会いと、オリンピックという大舞台を思い描いた信念が支えとなった。
「こんなに組んでいるペアはいないと思います」
東野は言う。最初の大会から13年を数える。世界の上位で競う中で、ここまでのキャリアを持つペアはいない。他の種目と比べれば練習面をはじめ環境が整っていないミックスダブルスで台頭できた、2人ならではの強さがそこにある。
「喧嘩は一度もないですね」互いをとことん思いやる姿
その原動力は、出発点での感触を大切にしつつ、互いをとことん思いやってきたことにある。
取材を通じて印象に残るのは、2人が相手をいかなるレベルでも責めたことがない点だ。
「喧嘩は一度もないですね」
東野は言う。渡辺も同じ趣旨を言葉にしている。
かつては気を遣うあまり、遠慮しがちなところもあった。それをみてとったコーチのジェレミー・ガンがコミュニケーションの大切さを説き、話し合う場を意図的に設けるなどする中で、思ったことを言い合うようになっていった。でも、ぶつからなかった。
東野が「自分のせいだ」と敗戦の責任を感じても、渡辺は必ず「自分のプレーが足りなかったから」と返した。といって、ぬるま湯のような関係ではない。成長するために、勝つために、プレーを改善するために意見を出し合うことは惜しまなかった。それでも衝突しなかった。長年パートナーとして歩んでいれば、いつか衝突することもある。そこから関係が崩れていくケースもある。しかし2人には、そんな危うさは皆無だった。
「どっちも『お前のせいだろう』と言うタイプではないので」(東野)
2人が他の追随を許さない、特別なペアである理由の一端がそこにある。