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お金でも名誉でもなく…松山英樹(32歳)はなぜ“五輪出場”に葛藤していた?「出るからには頑張る」目つきが変わった男子ゴルフ初の銅メダル
posted2024/08/07 06:00
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph by
Keyur Khamar/PGA TOUR via Getty Images
仮に意気込みが普段より劣っていたとしても、舞台に立つなり目つきが変わる。トップアスリートといった類の人種はきっとそうなのだろう。
松山英樹のゴルフ人生の中で、オリンピックは長いあいだ、あらゆるタイトルやゲームの後塵を拝すポジションに屈していた。2016年のリオデジャネイロ大会で112年ぶりに正式競技に復帰することが決まったのは2009年の秋。当時はすでに高校3年生で、彼の幼心を打ってきたのはメジャーや、現在の職場であるPGAツアーで活躍するスターの姿だった。
20歳そこそこで日本男子ゴルフの希望と目され、世界のトップランカーという立場になってからも、その姿勢は一貫していた。どのシーズンにおいても、オリンピックは一番の関心ごととは言えないように見えた。
五輪がプレッシャーになった理由
今思えば、オリンピックは彼にとって重圧以外の何物でもなかったのかもしれない。日本国民の世界屈指のメダル熱の高さを知っている。称賛を浴びるアスリートに、尊敬と羨望の眼差しを向けながら、自分事と捉えると不安で仕方がない。
プロゴルフは毎週、1大会で最大150人以上の選手が1つのタイトルを争う。オリンピックはフィールドの60人が3つのメダルを目指す。“目標達成”の確率が高いのは後者に違いない。しかし、だからこそ、その期待の高さはそのままプレッシャーに成り代わった。
お金のために出た? とんでもない。金メダルを手にした日本のゴルファーが獲得する報奨金はJOC、各ゴルフ団体が出資する額を合わせて2500万円(銀1200万円、銅700万円)。松山は今季すでに760万ドル(約11億円)以上の賞金を稼いでいる。
「出るからには頑張りたい」。何の変哲もない試合前のフレーズは、負けてはいけない闘いに向かう覚悟そのものだった。