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シャルル・ルクレールに母国モナコGP初優勝をもたらした超スローペース戦略の妙「チームは『もっと落としてくれ』と…」 

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尾張正博

尾張正博Masahiro Owari

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posted2024/05/31 11:00

シャルル・ルクレールに母国モナコGP初優勝をもたらした超スローペース戦略の妙「チームは『もっと落としてくれ』と…」<Number Web> photograph by Getty Images

念願だったモナコでの優勝を成し遂げ、歓喜のルクレール。18年のF1デビュー以来6回目の挑戦での勝利だった

 その翌年もポールポジションを獲得したルクレールだったが、スタート直前に降り出した雨が流れを変えた。スタート後、徐々に路面が乾き始めたタイミングでのピットストップ作戦で、フェラーリはレッドブルに逆転を許し、ルクレールはまさかの4位でチェッカーフラッグを受けることとなった。

 今年の予選でもポールポジションを獲得したルクレールにモナコの人々が今年こそはと期待するのは当然のことで、ルクレールにしてもその思いは同じだった。

「2年ぶりに勝つチャンスが訪れた。しかもそのチャンスが母国のモナコ。このチャンスを絶対に逃してはならない」

モナコならではの決断

 ところが日曜日の決勝レースはスタート直後に後方で多重クラッシュが発生し、1周目に赤旗中断となる。F1のルールでは、ドライコンディションの場合、2種類のタイヤを使用せねばならず、最低1回はピットインしなければならない。そのタイヤ交換作業は赤旗中のピットイン時でも有効であることから、ルクレールを先頭にほとんどのドライバーがピットイン。スタート時とは異なるコンパウンドのタイヤに履き替え、タイヤ交換の義務を果たした。

 ただし、モナコGPの周回数は78周。1周目に赤旗中断となったこのレースで、再スタートでもポールポジションからスタートするルクレールが、ピットストップしないで優勝するためには、1セットのタイヤで77周を走らなければならないこととなった。

 ここでルクレールとチームは、勇気ある戦略の採用を決断する。それは、超スローペース作戦だ。もともと低速コースのモナコは、負荷を与えない走りに徹すればタイヤが持つ。しかも、ペースを落としても抜きどころがないため、要所を押さえればオーバーテイクされるリスクは少ない。

 再スタートでもトップの座を堅持したルクレールは、後ろを見ながらレースをコントロールした。再スタート直後の3周目のペースは自身が前日に記録したポールポジションタイムの1分10秒270より14秒も遅い1分24秒台。それがいかに異例だったかは、F1の前座として行なわれたF2のフィーチャーレースのファステストラップが1分22秒台だったことからもわかる。

【次ページ】 父の思い出とともに

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