ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
「なぜネリは井上ダウン後、もっと攻めなかった?」敗者ネリの誤算…長谷川穂積が実況席で見た井上尚弥の“壮絶TKO”「実力差がありました」
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2024/05/12 17:02
5月6日、井上尚弥vsルイス・ネリ。実況席の長谷川穂積さんにはどう見えたのか?
「左フック、右アッパー、右ストレートでした。井上選手は左フック、右アッパー、左ボディというパターンが多い。得意のパターンの一つです。それをあの場面では右アッパーから右ストレートにつなげた。僕もサウスポーで左アッパーから左ストレートはよく使いましたけど、あそこで右ストレートを出したのは感覚的なものだと思います。一瞬の、0.01秒の判断力。そういうパンチの選択、頭の良さも光ったなと思います。それにしてもえげつない倒し方でしたけど(笑)」
終わってみれば、井上はキャリア最大のピンチを迎えながら、結果的にはその実力を遺憾なく発揮したと言えそうだ。
「実力差はありました。僕の中では、ネリは特にすごい強い選手かといえばそうでもないんで、彼なりによくがんばったと思います。ただ、1ラウンドのダウンをのぞけば、フルで取られているわけですから。結果的には何もできなかったに近いですね」
「グッドマンが化け物かといえば違いますし…」
東京ドーム興行を成功裏に終え、井上は今後どこに向かっていくのだろうか。
「早く階級を上げて、もっと負けるかも知れない相手とやってほしいとか、僕らは好き勝手なことを言うじゃないですか。でも、本人にしたら今回なんてとんでもないプレッシャーなんですよ。想像できないですよ。僕らには分からない苦しみやつらさを抱えていたはずなんです。それなのに、そんなことを感じさせずに圧倒してしまうから、もっとハードルの高いことを言ってしまうんです」
井上の胸中をおもんぱかり、そして続けた。
「僕が井上選手だとしたら、東京ドームで最高の形を残して、次はちょっとモチベーションを上げるのが難しいかなと思います。9月に対戦予定と言われるサム・グッドマンが化け物のような選手かといえば違いますし、会場も東京ドームより小さくなるのは間違いない。ただね、そこは井上選手ですから。誰とやっても面白いですから、試合終わったらやっぱり面白かったってなると思うんですよね」