繊細な駆け引きにも、ベンチから声が飛ぶ

「ファンのみなさんはキャッチャーは止めて当然と思われるかもしれませんが、ぼくらの仕事にはちょっとしたブロッキングに見えて、実はかなり難しいプレーがあるんです。例えば同期の千賀（滉大）はワンバウンドのボールが多いので、ものすごく神経を使う。そんな難しいボールを止めたとき、松田さんや慶三さんからいつも必ず『拓也ナイスストップ！』という声が飛ぶ。そんな声をかけていただくたびに、『ああ、ちゃんと見てもらえているんだなあ』と思えて、ものすごく励みになる。ひとつの声で、モチベーションが確実に上がるんです」

　うれしいのは捕球に対する声かけだけではない。プロにしかわからない大胆かつ繊細な駆け引きにも、ホークスではベンチから次々と声が飛ぶ。

「例えば思い切った攻めの配球に対して、『そうそう、それでいいんだ！』といったバッテリーの背中を押してくれるような声がたくさん飛ぶんです。ベンチにいる先輩たちもゲームに没頭して、ぼくらと一緒に戦ってくれている。そんな思いがして、プレーしていてとても心強いんです」

　育成ドラフト6位の無名のキャッチャーは、チームメイトからのエールを糧に一軍のレギュラーをつかみ、侍ジャパンへと駆け上がった。ホークスの、そして侍ジャパンのホームを守る男は、だれよりも声の重みを知っているのだ。