「ただ、チャンピオンにはなったけど時代を作るところまでいってないんですよね。たとえば、白いベルトには中野たむが巻いていたというイメージが強い。私も“今は白いベルトといえば白川”にしたかった。それができなかったんです。他のベルトもそうですよね。保持期間が短くて。今もよく“白川未奈が白いベルトを巻くほどの選手になるとは思ってなかった”と言われるんです。イメージを変えることができてないってことですよね」

　結果を出すことで選手としての“番付”は上がっている。しかし白川は「その番付はいつ下がるか分からない。足場がいつ崩れてもおかしくない」と感じてきた。

ユニット選手の欠場などが重なり、ひとりで闘い続けた白川　©Essei Hara

　白川が率いるクラブ・ヴィーナスは世界を意識し、海外からメンバーを集めたユニットだ。だが外国人選手が定着するのは簡単ではない。白川がスカウティングしたにせよ、契約するのは団体だ。ビザが切れて帰国しなければならなかったり、母国の団体と新たに契約する選手もいる。一緒にユニットを立ち上げた月山和香も負傷で長期欠場に入り、昨年終盤のクラブ・ヴィーナスはリングに上がることのできる選手が白川だけになっていた。

「私から会社に海外選手を呼んでほしいというアピールはしてたんです。でもなかなかうまくいかない。クラブ・ヴィーナスが軽んじられてるのかなと疑心暗鬼になる時もありましたね。ただ、それを表に出したくなかった。悔しいとか寂しいとかじゃなく“また日本に来る時を待ってるよ”、“ケガが治るのを待ってるよ”という表現にしてました。同情されたくなくて本音を隠してたんです」

ロッシー小川からかけられた一言

　だが本音を隠しても、結局はうまくいかない。まして白川は喜怒哀楽すべてをリングにぶつけることで観客の支持を勝ち取ってきたレスラーだ。高速道路を進むようなエリートもいる中で「下道を爆走して抜いてやる」という気概で闘ってきた。今まさに悔しいことばかりなのに、それを隠しても意味がない。そう思うようになるきっかけもあった。

年末の両国大会では高橋奈七永をターゲットに。シングル戦も実現させたいと言う　©Essei Hara

　ユニットのメンバーがいない状態の白川は、タイトル争いに関係のない前半戦に登場することが多くなった。たとえば3人同時対戦の3WAYマッチ。クサることなく楽しい試合で会場を盛り上げる。そんな白川を団体創始者でエグゼクティブ・プロデューサーのロッシー小川はこう評した。

「もはや前座の番人」

　興行における前座の大切さを熟知しているからこその高評価だった。“前座の名物レスラー”がいれば、それだけ興行に厚みが増す。小川がほめてくれているのを理解しながらも、同時に「火がついた」と白川は言う。

「前座の番人というのは大事なポジションだと思います。でも私は常にタイトル争いをするトップ選手でいたい。小川さんの言葉で、本当に“このままじゃダメだ”となりました」

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