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なでしこ過酷ブラジル遠征での“礼儀正しさ”に現地記者が感動…エースMF長谷川唯「サインお願いします、と見えたので」1勝1敗以上の意義
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph byRicardo Moreira/Getty Images
posted2023/12/06 17:51
日本-ブラジル第1戦のスターティングメンバ―。1勝1敗の結果だけではない、なでしこジャパンが見せた振る舞いとは
前半は、ミスからピンチを招いた場面もあったが何とか凌ぎ、効率良く点を取った。しかし後半は疲れが出たのか、中盤を支配されてほぼ一方的に攻め込まれた。それでも、なでしこの選手は球際では体を張って防ぐ。W杯後、これがまだ4試合目でチーム作りが遅れているブラジルのミスにも助けられ、無失点で試合を終えた。
ブラジルは、世界に冠たるフットボール王国である。大多数のメディアと国民は、W杯で優勝経験がある国しか強豪と認めていない。男子は、ブラジルが世界最多の5回の優勝を誇るのに対して、日本はまだベスト8入りを果たしたことがない。両国の対戦成績も、ブラジルの11勝2分と圧倒的だ。
ブラジル監督「パリ五輪では優勝候補の一角だろう」
一方、女子はなでしこがW杯では11年大会で優勝、15年大会で準優勝し、五輪でも12年に銀メダルを獲得している。それに対してブラジルはW杯で2007年大会で準優勝、五輪では2004年と2008年に銀メダルを獲得しているが、実績ではなでしこに及ばない。両国の対戦成績は、今回の2試合を含めて日本が6勝2分5敗と勝ち越している。
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ブラジルのエリアス監督は「日本選手は、非常に技術レベルが高く、状況判断も素晴らしい。経験豊富な選手が多い一方で、若い選手も台頭してきている」、「パリ五輪では、優勝候補の一角だろう」と敬意を払っていた。
この2試合を通じて、なでしこには多くの収穫があった。
攻撃では、リズミカルにパスをつなぎ、SBとCBの間のスペースを巧みに突いたり、SBが果敢にオーバーラップをしたりして変化をつけ、思い切り良くシュートを放った。2試合で5得点という数字は、もちろん合格点だ。
個人では、長谷川の崩しのパスは威力を発揮したし、田中が2得点を挙げ、植木と藤野もゴールという結果を出した。一方、守備ではCB南が非常に安定していた。古賀も時折ミスはあったが伸び伸びとプレーし、球際でも強さを見せた。過酷な条件下で若手を含む多くの選手を試しながら、1勝1敗という結果を残したのは褒められていい。
課題も見えたが意義のある“弾丸遠征”だったのでは
その一方で、課題も残した。
最大の問題点は、第1戦の後半、最終ラインのミスから立て続けに失点を喫したこと。高いレベルの試合では、決してあってはならない類の失態だ。
熊谷は「ブラジルの2点目は、私の完全なパスミス(バックパスが短くなったところをブラジル選手に拾われ、独走を許した)。その後の失点も、本来なら防ぐことができた」と悔しそうだった。
第2戦も結果的に無失点に抑えたとはいえ――疲れのためか高い位置からのプレスが効かなくなり、多くのピンチを招いた。
池田太監督は「最後の試合で、強豪相手にアウェーで勝ち切れたのは大きい。W杯後、着実に成長しているという手応えがある」と語った。また第2戦で貴重な先制点を挙げた南は「困難な場面もあったが、全員で何とか乗り切ることができた。みんな、これで帰りの長旅が少し楽になると思う」と笑顔を浮かべた。