――まず試合内容の話をしてほしいのですが、井上のあそこまでの強さには少々驚かされたのでしょうか？

WR　いや、そんなことはない。井上がとてつもないボクサーだということはわかっていた。そして、彼は勝利を得るに値するだけのことをやり遂げた。驚かされたことがあったとすれば、フルトンが自身の力を出せなかったことだ。

　彼のパフォーマンスには落胆させられた。フルトンはもっといいボクサーであり、自身のボクシングができていれば違った展開、内容の戦いになっていただろう。フルトンが勝てていたとは言わないが、もっと面白い試合になっていたと思う。ただ、終わってからそうやって振り返るのは簡単なことだ。私たちにできるのはこの経験から学び、前に進むことだけだ。

試合後の会見で井上尚弥を称えたフルトン（右）とラヒーム　©︎Hiroaki Yamaguchi

――ボクサーとしての井上に関し、印象的だった部分は？

WR　すべてを備えた選手だ。スピードがあるし、タイミングがいい。とにかくパンチのタイミングがいいから、力む必要がない。（立ち上がってパンチを打つそぶりをしながら）世界中のほとんどのボクサーは強いパンチを打とうとしてモーションをつけてしまうが、井上は構えた位置からそのままパンチを出しても強打が打てる。とても強く、総合力が高く、欠点らしきものは見当たらない。

　12月に対戦するタパレスもKOしてしまうだろう。フルトン戦よりももっと一方的な内容になるんじゃないかな。もちろんボクシングでは何があるかわからないから、タパレスのチャンスを打ち消すべきではないが、井上が負けるとは思えない。それだけの選手だ。これで2階級目の4団体制覇なんて、とてつもないことだよ。できればタパレス戦ではまた日本に行き、井上を応援したい。フルトンも行きたいと思っているかどうかはわからないが、聞いてみるつもりだ。

「私の準備不足だ」「責められるとしたら私」

――フルトンは力が出せなかったということですが、具体的にはどういったファイトプランを用意し、何がうまくいかなかったんでしょうか？

井上尚弥に完敗を喫したスティーブン・フルトン　©︎Takuya Sugiyama

WR　フルトンがどうのというより、私の準備不足だ。力を発揮できなかったことに関し、フルトンを責めるつもりはない。責められるとしたら私だ。飛行機が上手く飛ばなかったとしたら、飛行機自体ではなく、操縦する人間が責任を問われるのは当然だ。私の準備が十分ではなかった。ただ、そういうことは起こるもの。トレーナーとしての私は、当初は考えてもいなかった舞台にまで辿り着くことができた。これまでも様々な経験から学び続け、今回もそれは同じだ。敗戦はいいレッスンになる。

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