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ボクシングPRESSBACK NUMBER
井上尚弥をどう倒すつもりだった? フルトンのトレーナーが明かす“幻のモンスター撃破プラン”「タパレス戦は日本で応援したい」
text by
杉浦大介Daisuke Sugiura
photograph byDaisuke Sugiura
posted2023/10/24 11:04
スティーブン・フルトンのトレーナーを務めるワヒード・ラヒーム氏。井上尚弥との一戦を振り返った
――改めて聞きますが、力を出せなかった具体的な原因として考えられることは?
WR 1つ言えることがあるとすれば、減量は厳しかった。もともと2月にブランドン・フィゲロア(アメリカ)とフェザー級で再戦するつもりで調整していたのが、スーパーバンタム級に戻ることになり、調整は容易ではなかった。ただ、結論として言えるのは、フルトンは契約書にサインし、実際に体重を作ったということ。改めて言っておきたいが、それを言い訳にはならない。あの試合は井上の圧勝だった。公平な条件で、誰かが不正をしたわけでもなく、議論も何もない形で井上が勝ったんだ。
――母国から遠く離れた日本で厳しい減量をこなすのはやはり難しかったでしょうか?
WR 日本で試合に向けた準備をするのが難しかったのは事実だ。スパーリングパートナーが不在で、私がパートナーを務めねばならなかった。ただ、帝拳プロモーションの人間はみんな非常によくしてくれて、いい仕事をしてくれたのだから、それも言い訳にはできない。これもまた重要な1つの経験として今後の私たちの助けになる。
――もう一度だけ聞きますが、戦略、戦い方の面で誤算はどこにあったのでしょう?
WR フルトンが井上の正面に立ってしまったことだ。おかげで井上を快適に戦わせてしまった。それは私たちのゲームプランとは違っていた。ただ、なぜそれができなかったかといえば、そういう戦いをする準備ができていなかったから。だから私の責任だと言ったんだ。コーナーで「ゲームプラン通りに戦おう。アウトボクシングするはずだろ!」と伝えたが、それができなかった。
振り返ると、(2022年6月の)ダニー・ローマン(アメリカ)戦ではビューティフルな戦いができた。ただ、実はフィゲロア戦でも同じようにアウトボクシングができず、やっとプラン通りに戦えたのは後半に入ってからだった(注・フィゲロア戦は接戦となり、フルトンが際どい2-0判定勝利)。
ラヒームが想像していた理想の展開
――やはりもっと足を動かすことがプランだったんですね。
WR みんな気付いていないかもしれないが、6回が終わり、7回に入る前のインターバルでフルトンを叩いたんだ。目を覚まさせたいと思って、「なぜゲームプラン通りに戦わないんだ?」と叫んだ。その効果があったのか、直後の7回はフルトンが唯一、ポイントを奪うラウンドになった。ただ、8回はまた正面に立ってしまい、ああいう結果になった。フルトンはしっかりとアウトボクシングをしたとき、より優れた結果を出す。ポール・バトラー(英国)のように動き回るのではなく、よりメリハリを効かせた形でサイドに動くのがプランだった。
――試合内容についてはよくわかりました。続いて試合前、騒ぎになったバンテージをめぐる騒動についても話してください。あなたは日本コミッションのルールでは許可された素肌にテーピングをした上でバンテージを巻く日本式の方法に抗議し、井上側が譲歩する形で落ち着きました。あの一件を今、どう振り返りますか?
(つづく)
※後編では、あの「バンテージ発言」の真意を語っている。