SCORE CARD INTERVIEWBACK NUMBER
かつて藤井聡太を“号泣させた男”は「ある質問」に苦笑した…「藤井さんを追いかけて」20歳・伊藤匠七段の巨大なポテンシャル
text by
大川慎太郎Shintaro Okawa
photograph byJIJI PRESS
posted2023/09/17 06:00
幼い頃から藤井聡太竜王を追いかけてきた伊藤匠七段
藤井戦の攻略法を聞くと「均衡のとれた将棋」
「おかげで体調を崩すことはなくなりました。ただランニングは楽しいものではありません。正直に言えば、ただただ苦痛です(笑)」と語る。体調を維持するため、それはつまり将棋に勝つためである。伊藤は「将棋以外にやりたいことはないので、オフの日はありません。毎日、ずっと将棋をやっています」と語っており、人生で一番喜びを感じる瞬間を尋ねると、「将棋に勝った時です。やっぱり自分は将棋に懸けているので」と強い意志を感じさせた。
将棋漬けで努力を積み重ねてきた日々が、元々持っていた巨大なポテンシャルを開花させつつあるのだ。
七番勝負ではどこに勝機を見出すのだろうか。
「どういう展開に勝機があるのかは想像できていません。ただ竜王戦は2日制で持ち時間8時間とかなり長いので、早い段階で差がつかないように気をつけて、終盤まで均衡のとれた将棋にしたい」と意気込む。
藤井と伊藤が創り上げる「素晴らしい将棋」
タイトル戦で17期無敗の藤井は言うまでもなく超強敵だ。それでも、自身の姿を以前の何倍にも大きくした伊藤は「七番勝負が楽しみです」とはっきり語った。そして「藤井さんと対局できることは本当に楽しみです。昨年度は2局指せましたが、今年度は対局できない恐れもあった。七番勝負で何局も指せるのは嬉しい」と繰り返した。
最後に訊きたいことがあった。伊藤は奨励会時代、藤井の将棋が中継されていて勝利に近づくと、普通の感情でいられなくなることがあったという。今はどうなのか。
「それは自分が奨励会時代の話です。今は、素晴らしい将棋を指してほしいと心から思っています」ときっぱりした口調で語った。見上げていた存在は今は視線の先におり、いよいよ大舞台で相まみえる。二人で素晴らしい将棋を創り上げるのだ――。
第36期竜王戦第1局は、10月6日に開幕する。藤井の八冠が懸かる王座戦が決着している可能性もあるが、大きな伸びしろと余白を持つ伊藤匠の将棋を観ないわけにはいかない。
伊藤匠Takumi Ito
2002年10月10日、東京都生まれ。宮田利男八段門下。'20年に四段に昇段し、当時の最年少棋士に。'23年8月に竜王戦挑戦権を獲得し、七段に昇段。順位戦ではC級1組に在籍している