進取の将棋BACK NUMBER
「中学生の頃からとてつもなく強いと」王座経験者がホンネで語る永瀬拓矢“軍曹”の素顔「藤井(聡太)七冠をリスペクトする一方で…」
text by
中村太地Taichi Nakamura
photograph byTakuya Sugiyama
posted2023/09/12 06:02
「名誉王座」に挑む永瀬拓矢王座。「軍曹」の愛称は将棋ファンに定着している
お恥ずかしい話ですが、居飛車をほぼやってこなかったので、居飛車党になるなら知っていて当然のはずの定跡など、まったく知識がないんですよね(苦笑)。
定跡を知らないのはプロレベルになると致命的な一方で、プロを目指すための最終関門である三段リーグでいきなり居飛車に転向するのもリスクが高すぎる。そこで私も長いスパンを見て転向しようと決めて、プロになって数年は振り飛車でやりながら、居飛車の勉強をしていった経緯がありました。
永瀬王座も居飛車転向後、特徴である受け将棋に攻撃力を増していった印象があります。ただ、それだけの大きな転換をするためには一定程度の期間を設けるのが必要だなと実感します。
野球でたとえるなら、投手がオーバースローからサイドスローに変えるような決断だと思います。その場合はシーズンオフなど実戦期間以外で練習を積んでいくのではないかと推測します。一方、将棋の場合は各種スポーツと比べて、シーズンオフが限りなく少ない。そのためシーズン中に少しずつ練習をしつつ……という感じでしょうか。永瀬王座も私も、そこは同じようなプロセスだったのではないかなと。
“相手を見て、嫌であろう手を指せる”胆力
永瀬王座とはこれまで計7局、公式戦対局で相まみえました(※中村から見て3勝4敗)。中盤の読みの深さ、終盤力の高さはもちろんのこと「将棋の勝負を突き詰めている」というのが最も強く印象に残ります。相手が間違えそうな手を選ぶなど“相手を見て、嫌であろう手を指せる”胆力と言いましょうか。
それは持ち時間であっても、時間差がついていた場合、対戦する棋士を時間切迫に追い詰めるなど、全ての要素を使って勝ち切ろうという気迫にあふれています。その「将棋体力」の高さは将棋界でも突出しているのではないでしょうか。
そんな体力の源となる食事量も対局時はものすごい……王将戦第1局では元湯陣屋名物の「陣屋カレー(※ビーフと伊勢海老シーフード、2種類セット)豪華絢爛なもの)」を昼どころか夕方まで食する姿に、衝撃を受けたファンの方も多かったのでは(笑)。永瀬王座は陣屋での勝率が非常に高いとご自身もお話しされていましたが、そういった意味でも相当お気に入りの場所なのでしょうね。