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甲子園の監督たち“テレビには映らない”本音の試合後コメント「おでんと一緒です」「俺はもう満足した」…見えた“勝ち上がるチーム”の特徴
posted2023/08/20 17:02
text by
中村計Kei Nakamura
photograph by
Hideki Sugiyama
4勝目の味付けは、間に合わなかった。
「おでんと一緒ですよ。味が染み込んでる。それをいきなり圧力鍋かなんかでやろうとしたって、無理じゃないですか。僕の責任ですよ。僕がずっと夏3勝って言ってきたので」
19日の準々決勝の神村学園戦で0−6と完敗した後、諦観したようにそう敗戦の弁を語ったのは、おかやま山陽の監督、堤尚彦である。
目標を“超えてしまった”チーム
新チーム結成からことあるごとに口にしてきた「甲子園3勝」という目標。過去2度、甲子園に出場しながらも未勝利だったチームにとっては決して小さくない目標だった。
ところが、2回戦でタイブレークの末に大垣日大を4−3で下し、その目標達成まであと1勝と迫ったため、堤は、その日の晩、食堂で目標を上方修正した。
「優勝はおこがましいので、決勝進出するぞ、と」
ただ、急ごしらえの感は否めなかった。だから、3回戦で日大三に勝利して「甲子園3勝」を達成した後、堤は、冗談を装いながらも本気で危惧しているようでもあった。
「次、20対0かもしれないです。(目標を達成して)隙が出そうな気がする。どこかでカミナリを落とさないとダメかな」
そして、その不安は、半ば的中した形となってしまった。
高校野球における目標設定の難しさ。おかやま山陽の快進撃と散り際は、それを改めて示していた。
思い出す「2007年佐賀北」の絶妙な目標
目標を意識した時間が長ければ長いほど、また、その思いが強ければ強いほど、その目標を達成したとき、気持ちは一気に解けてしまうものだ。ただ、それくらいの時間と思いの強度があったからこそ、実現にたどり着いたのだとも言える。
また、目標は大きければ大きいほどいいのだろうが、あまりに現実離れし過ぎていても、気持ちは続かない。
そこへ行くと、公立最後の夏の優勝校、2007年に全国制覇を遂げたときの佐賀北の百﨑敏克の目標設定は絶妙だった。